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現在ただいまの場の中心(物理的な意味で)となっているのは、《緑なす泉》というところの代表であるクルト・ゼーネ゠オライセンさん――のそばに鎮座する石製のオブジェである。
形としては単純な直方体で、目立たないけど側面の下のほうにだけ彫刻による装飾がなされている。
そのオブジェの上に、なにかが置かれていた。四角くて、サイズとしてはあまり大きくない。紙ならB6サイズ程度の大きさ。光沢のある、まだ比較的新しい十円玉色。
「――それがいまの開始地点か?」
眉根を寄せて顔を顰めながらヴェルゼン様がオライセンさんに訊ねる。
「見たことのない銅版だ。五十二枚目か。よりによって新作が開始地点になるとは」
あー、そっか。これが銅版。なるほど銅だから十円玉っぽい色なわけね。
五十二枚目というのは……同じようなのが全部で五十二枚あるってことでよろしいですか? ええと、ジルドナート青年たちが五十一枚目の調査がどうとかなんとか言っていたような。
石製オブジェ天面の中央の部分には銅版の大きさ形に合わせたような浅い凹みがあって、そこにちょうどよく納まるようになっているらしい。銅版専用の台座ということなのかも。その銅版をオライセンさんが手に取って、オーリ君とヴェルゼン様に見えやすいように掲げる。厚みは全然ない薄い板だ。
「どうも月夜画の一枚ではないかと……月、出てませんが」
オライセンさんが手にする銅版、つまり版画を刷るための原版に描かれているのは、どこかの街並みだった。石畳の道と、立ち並ぶ複数階層の建物。街並みのその上にはなにもない空。夜空のようだった。オライセンさんが言うように、月は描かれていない。そんな光景だ。
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