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「状況はどうなっている!?」
いきなり横手から大きな声が聞こえてきた。最も建物の端に近い位置にある出入り口あたりからのようだ。集まっている人々で隠されてしまっていて声の主の姿は確認できないけれど、年輩の男性の声だった。
ざわざわと揺れる人々の声の中に混じって「ヴェルゼン様」と呼ばれるのが聞こえる。さっき耳にしたばっかですその名前。普段はお昼前に出てくるって人。あと「眷族様」というのも小さく聞こえた。
集まっている人たちがささっと動いて一人が通れるだけのスペースが空けられ、現れたのは白髪のご老体だった。顔に刻まれた皺は深いけれど身長高めで姿勢がとてもよろしく、しっかりした足取りで大股に歩いてくる様は矍鑠たるの見本のようだ。目の色はヘーゼルで、白髪に混じって栗色の髪の毛がわずかに残っている。
特筆すべきなのは彼が身に纏っている衣装と、それから肌に浮かぶ紋様だ。
ヴェルゼン様が着ているのは丈が長めで肩から胸の部分にかけて左右ともに精緻な刺繍による装飾が施されている黒の上衣である。形は少し異なるけど、全体的な印象としては殿下とオーリ君が着ているものと同系統。
二人の衣装との大きな違いは、刺繍に用いられているのが殿下とオーリ君の上衣が銀色なのに対して、ヴェルゼン様の上衣は金色である点。
そして、たぶんこれが一番重要なんじゃないかなーと思うんだけど、意匠が異なっている。殿下とオーリ君の上衣にあるのは棘とギザギザの葉っぱと丸い蕾っぽいものがある蔓植物の意匠で、ヴェルゼン様のほうは蔓植物なのは同じだけど、丸みのある葉っぱ、小さくて花びらが密集している花、優美な曲線を描く細い蔓といった感じである。同じ植物モチーフでもだいぶ印象が違う。
殿下やオーリ君の上衣の装飾は、二人の両手にある紋様と同じ意匠のものだ。それはヴェルゼン様にも当てはまっていて、彼の両方の手に細い蔓、小さな花、そして丸っこい葉の紋様がはっきりと見える。色は落ち着いたオリーブ色。
そして、ヴェルゼン様は首のところにも紋様が浮かんでいる。ちょうど喉仏に重なるくらいの位置を真っ直ぐ横切る形で、たぶん首回りを一周していそう。ぱっと見だとレースやワイヤーで作り上げたチョーカーっぽく見えなくもない。この位置の紋様は殿下とオーリ君には存在しないものだ。オーリ君には別の紋様が喉仏のちょい下くらいにあるけど、こっちはたぶんリオニル関連っぽいのでまた別物だし。
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