5話 水の呪い
「なんでっ…おばあさん!水のおばあさん!」
家のストックは無くなっていたので、家に押しかけた街の人に、水をもらってきてあげると約束して沙優は山を登った。
しかし、どこを探してもいつものおばあさんはいなかった。
カァー…カァー…
「はあ…はあ…どこ?どこなの?おばあさん!」
だんだん日も落ちてきた。
それでも必死に山を探し回っていると、沙優はだんだん体に違和感を覚え始めた。
なんだか体がクラクラする。
喉が痛い。
今までとは比べものにならないほどの、水が欲しいという感情が襲いかかってきた。
それは感情というより、そうせざるをえない運命のような、逃れることのできない欲求だった。
このまま水を飲まないと死ぬという予感さえした。
「ごめんみんな…水は…」
朝から夕方まで山を探してもおばあさんが見つからないから、沙優は事情を説明しに一度山を降りた。
山の麓には既に大勢の人、100人くらいが水を求めて集まっており、そしてみんな倒れていた。
「えっ…みんな!?しっかりして!」
「…み…ず…」
「………」
「水…を…」
「いやあっ…うわあああ!!」
みんな水を飲んだことで、水無しでは生きられない体になってしまっていた。
やっぱり水は飲んではいけないものだったんだ。
私のせいだ。
私が街中に水を配ったりしなければ、こんなことには。
「…お母さん…」
「…行きなさい…沙優」
その場で自分以外で唯一立っていた沙優の母は、娘を慰めることはなく、ただ冷たい瞳をして沙優に語りかけるのみだった。
沙優は思い出した。
水をくれる老人は2人いた。
昼のおばあさんと、夜のおじいさん。
最近は昼にしか山に行ってなかったから忘れかけていたが、もしかしたらおじいさんならいるかもしれない。
沙優はもう一度、今度は日がすっかり沈んだ後の、夜の山へ入って行った。