4話 貴重な水
「…やっぱりおばあさんじゃん!」
「やや?私はずっとおばあさんぞよ?」
沙優は昨日のことが気になって、昼に山に入ってまた老人に会いに行った。
その人はやはりおばあさんだった。
沙優はこの優しそうな方の老人に色々聞いておこうと、昨日のことを話した。
「ははは。そうか、弟にあったんだなあ」
「弟?」
「私の双子の弟ぞ。よう似とるから、見間違えたんね。ほら、水をやろう」
「なっ、なんだ〜!あっ、ありがとう〜!」
水をくれるおばあさんはやっぱり優しい雰囲気の人だった。
よって、沙優はまた水をもらって飲んだ。
「沙優ちゃんや、今日は水を沢山やろう。お母さんにもお父さんにも、近所の人にも配ってやるでな。みんな水飲んで良い気持ちになるとええ」
「…うん!やっぱり水って美味しい!私、水の美味しさ広める!」
「はは、そりゃええ。よろしくなあ」
おばあさんは水のいっぱい入った大きな筒を沙優に渡した。
その大きな筒は、横に倒して地面を転がして運ぶための、長い取っ手がついていた。
かくして沙優は街の水の美味しさ宣伝大使になった。
小さな街だが、子どもが歩くには十分広いその街を、沙優は大きな筒を転がしながら隈なく練り歩いて水を配って回った。
筒には出す水の量を調節できるネジが付いており、沙優は街のみんなに一杯ずつ水を配った。
全員が美味しい、美味しいと喜んで飲んでくれるから、沙優も嬉しい気持ちになるのだった。
「これは美味しいなあ」
「でしょ?」
沙優はお父さんにも飲ませてあげた。
いつしか水は沙優にとって、怖いものではなくなっていた。
さらに、水は飲む以外にも使うことができる、とても便利なものだと分かってきた。
「ほら見て!大量の水と具材、麺を入れて火にかければ、柔らかそば!」
ツルツルッ!
「美味しい!さすがお母さん!おかわり!」
水は万能と言って差し支えない食材だった。
もともと美味しかった母の料理は、水を得て段違いに美味しくなった。
沙優は持ち前のセンスで水を巧みに使って料理をする母を、密かに自慢に思うのだった。
「おはよー!水また飲ませてよー!」
「沙優ちゃんしか貰ってこれないのだから早くー!」
「水をくれー!」
朝、沙優は大人の大きな声で目を覚ました。
窓を開けると、家の前に大勢の人が押しかけていて、声を荒げて水を求めていたのだった。
街で水を配って歩くのを3日連続で続け、1日休んだ次の日だった。
この頃には、水をくれる老人は、沙優だけで山に行かないと現れないことが分かっていた。