表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/75

第二章 ~『事件解明』~


 皇后との謁見を終えた後、琳華(りんふぁ)麗珠(れいしゅ)は共に回廊を歩いていた。夜の静けさが満ちた空間に、二人の足音が静かに響く。


 手には皇后からの依頼で受け取った二つのエメラルドがあった。立ち止まり、月明かりの下で観察するが、どんなに注意深く見ても、鑑定結果は変わらなかった。


「本当、不思議よね。輝きが途中で失われるなんて……」


 麗珠(れいしゅ)のぼやきに琳華(りんふぁ)は反応する。


「前例はありますよ」

「そうなの!」

「エメラルドは衝撃に弱いですから。物理的な外傷を与えれば、輝きを失うことはありえます」

「ならそれで正解じゃない!」


 謎は解けたわねと、麗珠(れいしゅ)は表情を明るくする。だが琳華(りんふぁ)は神妙な面持ちのままである。


「ただ、この仮説はおそらく間違いです」

「どうしてそう思うの?」

「エメラルドをどこかにぶつけたり、落としたりしたタイミングで輝きを失ったなら、皇后様も異変に気づくと思うのです」

「確かにね」

「それに一つなら偶発的な外傷として片付けることもできます。しかし二つのエメラルドに同じ現象が起きたとなれば、偶然の事故ではなく、きっと必然的な理由があるはずです」


 結論が出ないまま、琳華(りんふぁ)たちはエメラルドの謎について議論を重ねる。決定的な糸口を見つけられずにいると、彼女たちの元に穏やかな声が届く。


琳華(りんふぁ)、ここにいたんだね」

天翔(てんしょう)様!」


 琳華(りんふぁ)を見つけるために広大な後宮を探し回っていたのか、額に玉の汗を浮かべており、天翔(てんしょう)の努力を物語っていた。


「私を探すためにお手数をおかけしましたね……」

「僕が勝手に君を探していただけさ。気にしないで欲しい……それよりも君は皇后と話をしたんだよね? どんな話をしたんだい?」

「実は……」


 皇后と謁見し、多くの人から評価されていると聞かされたことや、エメラルドの謎を解くように命じられたことなどを伝えると、天翔(てんしょう)の瞳に不安の色が浮かぶ。


「僕については何も聞かされなかったかい?」

「片思いのような関係だと……」

「誤解されそうな表現だね……でも安心して欲しい。僕と皇后の間に邪な関係はないから」


 必死になって弁明する天翔(てんしょう)が愛らしくて、琳華(りんふぁ)の口元に笑みが溢れる。


「存じております。天翔(てんしょう)様はそのような軽薄な人ではありませんから」

「信じてくれたなら嬉しいよ。琳華(りんふぁ)には誤解されたくないからね」


 心臓が高鳴るような一言に、頬が赤く染まる。恥じらいを誤魔化すように、琳華(りんふぁ)がエメラルドの宝石に視線を移すと、彼の興味もそちらに向く。


「エメラルドの謎は解けたのかい?」


 天翔(てんしょう)の問いに、琳華(りんふぁ)は静かに首を振る。


「力及ばず、まだ全容解明には至っておりません」

琳華(りんふぁ)でも苦戦するんだね」

「エメラルドは鑑定の難しい宝石な上に、扱った件数も少ないですから……父が生きていれば、アドバイスを貰えたのでしょうが……」


 エメラルドの価値鑑定を困難にしているのは、内包物を含むからだ。これは天然石の象徴として価値を高める一因となる一方で、透明度や輝きを劣化させる欠点も抱えている。


 適度なバランスを見極め、価値を判断しなければならない。それがエメラルドという宝石の特徴だった。


「ただ私でもこのエメラルドが凡庸な宝石だと分かります。なにせ内包物が目立ちすぎて、輝きが不足していますから。とても皇后様が身につける品ではありません」


 皇后の装着品だ。証言からも購入時は一級品で間違いない。しかし眼の前にあるエメラルドは内包物によって透明度を失い、輝きが鈍くなっていた。


「もしかしたら、呪いだったりしないかしら」


 麗珠(れいしゅ)が思いついたように口を挟む。


「呪いですか?」

「そういう噂もあったの……先代の皇帝が非業の死を遂げたから、その呪いがエメラルドを曇らせたんだって……」

「関係ありませんよ。呪いで宝石が曇るなら、鑑定士は皆、廃業しなければいけませんから」


 宝石が誹謗中傷の道具として使われている現状に憤りを覚える。このような噂を止めるためにも、謎を解き明かす必要があった。


「困ったわね。他にヒントがあれば良いのだけれど……そうだわ! 映雪(えいせつ)に話を聞くのはどうかしら」

映雪(えいせつ)様にですか?」

「このエメラルドの買い付けを担当していたのは映雪(えいせつ)なの」

「……それは本当ですか?」

「間違いないわ。購入した当時は綺麗に輝くエメラルドだったから。映雪(えいせつ)のことを皇后様に紹介したの」

「なるほど。そういうことでしたか……」


 琳華(りんふぁ)の頭の中で事件の全容が明らかになる。なぜ映雪(えいせつ)は嫌がらせをしてまで麗珠(れいしゅ)から遠ざけようとしたのか、なぜ輝いていた宝石が急に曇ったのか、なぜその謎を解くようにと皇后が出題したのか。点と点が繋がり、大きな線となる。


「宝石の謎は解けました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i364010
― 新着の感想 ―
[一言] ミステリー好きなのに解けない。 自分浅。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ