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①どうして、君の結婚相手を探すことになったのかといいますと…


ザザ・グローダルは自分よりも頭二つは大きい男を見上げて、嬉しそうに笑う。


「有難う、ロウ!!

君のお陰だ!本当に、本当に、有難う!」

「…ああ」


ザザの喜びに満ちた顔と対するように、男の表情筋は全く持って動かず、冷え冷えとしている。

男の整った顔がそうさせているのか、鋭い眼光と威圧感がそうさせているのかは分からないが、対峙する二人の温度感はまるで夏と冬だ。

けれども、ザザ·グローダルは、男に表情がないのはいつものことだった。




ザザは国境を守る豪傑グローダル侯爵の孫娘だ。

グローダル一族は北方一の超有力貴族であり、資産も品格も教育も一流……のはずだ。

しかしながら、現在の彼女はほぼただの官史と変わらない生活を送っている。


それもこれも、過去に起こした事件の責任を取る為なのだが、ザザは貴族の生活よりも、王家の宮廷魔道武具師としての生活が性に合っていた。

つまり、ザザ·グローダルは、現状を憂うことはなく、今の生活に大変満足している変人である。


とはいえ、いくら変人でも「生まれ」からは完全に逃れきれない。妹の婚約者は、ザザの悪評(暴力、猿、ブス、変人などを貴族風に柔らかく滑らかに言い換えたもの)のせいで決まらない状態が続いたのだ。

歳の離れた可愛い妹に「お姉さまのせいよ!」と泣かれたときには、さすがのザザも罪悪感で頭を抱えた。

人の噂も七十五日といえど、北方地域の貴族は、十年も前の事でもしっかりと覚えているようだ。


私は満足してるけど、妹が私のせいで結婚出来ないのはまずい……!!

焦ったザザは、長く縁のある所謂幼馴染のロウ・バルト騎士団長に「妹の婚約者を探してくれないか?」と頼むことにした。


依頼してから、ほんの数週間後。

突然、領地にいる妹の元に、文句もつけられないような婿候補が現れた。


それも、何故だか私の紹介だとグローダル侯爵家には伝わっていたようで、家族からの手紙には「よくやった」と褒める文章があり、妹からも「お姉さま、酷いこと言ってごめんなさい。大好き」という一筆が添えられていた。

現金な!!とも思わなくもなかったが、それよりも私自身は頼んだだけで、何もしていない。

結局、手紙では否定する訳にもいかず、曖昧に肯定してしまった。


仕方が無いじゃないか、家族にロウに紹介してもらいましたなんて、口が裂けても言えない。


ザザとロウは気安い仲だが、

北東のグローダル侯爵と中東のバルト公爵は隣り合うくせに、非常に仲が悪い。いわゆる政敵だ。


だから、妹や父母には、婚約という大事なものを「おじい様の政敵のバルト公爵の次男に頼みました…ははは」なんて正直なことは口が裂けても言えなかった。

でも、今回の件はロウの功績なんだよ。

私は何にもしていない。



ザザはロウの腕を引き、日陰になっている地べたに座らせる。


ロウとザザは王都の城塞内で勤務している。

ザザが所属する魔術工房棟と、ロウが率いる魔獣討伐騎士団の詰所の中間地点は、魔草畑だ。


毒々しい色に、生薬臭漂うこの場所は、御礼を言うにも座らせるにも的さない場所なのだろうが、人がいないという点においては、これ以上にちょうどいい場所はない。


ザザは、ロウの隣に自らもすとんと腰を下ろす。そして、手に持っていたパンパンの紙袋を手渡した。


「?」


ロウは無表情のままことりと顔を傾げた。


「昼ごはんの代わり。朝、買ったんだ。知り合いに聞いたんだけど美味しいらしいよ。」

「沢山」

「残りは明日の朝にでも食べてよ」

「有難う」

「いやいや、むしろごめん。

勢いで呼び出したけど、午後も訓練だったよね?食堂の食事食べられなかったでしょ?」


ロウは小さく首をふった。

恐らく、訓練がないという意味ではなく、気にしなくていいという意味だろう。

本当にロウはいい奴だ。


「ザザは?」

「え、いや、大丈夫」


ロウはおもむろに、一斤まるごとの四角いパンを取り出し、大きな手で引きちぎってザザに手渡した。

ロウが引きちぎったときは大きくみえなかったが、自分に渡されたパンは随分、大きく見える。

ロウは行儀よくパンをちぎり、もそもそ口を動かしている。

ザザもそれを見習って口に含んだ。


食通の後輩が美味しいと言っていたから買ったけど、改めて見るとスープやチーズと一緒に食べてこそのパンだ。確かに、小麦の風味が美味しいが、口の中の水分という水分が全てもっていかれてしまう。


こういうところが駄目なんだよなぁ…

大抵のことは出来るようになった気でいるけど、いつまで経っても使用人が身の回りの世話をしていてくれたことが抜けない。

ちらりと隣を見ると、野外任務の多いロウは乾パンなどをよく食べているからか、喉をつまらせていないのが救いだった。


自分の不器用さにため息を吐くと、隣の大男はこちらを見ていたようだ。


「ザザ………困っている?…何すればいい?」


言葉の少ないロウの言葉は、やや幼い印象がある。

これでどうやって騎士団長をやっているのか心配していたが、何故かしら上手く行っているらしい。


「違うよ、大丈夫」

「ほんと?」

「本当!!ただ、君に礼をしたいと思ったのに、上手くいかないなって」

「さっき、聞いた」

「聞いたって、いや、言ったけどさぁ」


この男はお礼を言うことが、お礼だと思っているのだろうか?


「流石に『有難う』と言うだけじゃ気が済まないよ、子どもじゃないんだから。

それに、頼んだとき言ったじゃないか、もしも上手くいったら報酬を払うって」

「いらない」

「何を言っているんだ、君は無欲すぎるよ。

妹は私のせいで結婚できなかったのに、君は私の紹介だってことにしてくれたよね?お陰で、家族に褒められてしまったよ。」

「ザザが褒められたら嬉しい」

「いや、でも、何もやってないのに褒められるのは可笑しいよ。それに、私が君に礼がしたいんだ。頼む何かさせてくれないか?

私の家族には、君の手柄って言えないけど、私が君にできることは何かないかな?」

「………」


何の間かは分からないがロウはじっとザザを見つめている。


「…何でも?」

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