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ディ・アブロの能力

 ――中央病院・死体安置所――


 だいぶ解明できた、このマジェスフィアの性質が。ここが病院というのも丁度良かった。病院の書物が教えてくれたのだ、なぜ死者が動くのかを。それは神経信号だ、『ディ・アブロ』の音色は朽ち果てた肉体に魔力を流し脊髄反射を起こさせる。それ故に筋肉繊維が使い物にならなければ死者は動けない、同等に魔力を住まわせる脊髄が破壊されてしまえばただの肉片に戻ってしまう。だから、真っ二つに両断された死者は二度と起き上がれなかったのだ。


 そして、肉体の腐食は『ディ・アブロ』を鳴らした直後に止まるようだ。故にトールは声を発することができた。だが、同時期に作成した同僚は酷い有様だった、首の骨が折れ、声帯が砕けていたせいで、獣犬のような雄叫びしかあげられなかった。


 蓋を開ければ簡単な話じゃないか。実験に次ぐ実験が功を奏したと言っていい。だが、だからこそこの現実を俺は受け入れられない。こんな不完全な力では駄目だ、もっと無から有を生み出すような幻想的な魔法を追い求めていたのに。


 このマジェスフィアは砕けた肉片を元の人間として再形成できないではないか。骨と化した相手に血肉を与えないではないか。『ジョーカー・ザ・ワイルド』の力はこんなちっぽけなものだったのか。いやっ、違う、だから……。


 そうだ、トールは所詮、状態が良かったに過ぎないのだ。ならばグリードリバーで死んだもの達はどうだろうか……。

 これじゃぁ、俺が何の為にマジェスフィアを盗んだか分からない。『ジョーカー』の力とはこんなにも陳腐な物だったとはな……。


 ベイカーは狭き暗室に閉じこもりながらも未だ自身の持っているマジェスフィアこそが、『ジョーカー』のソレだと信じ切っていたのだ。だが現実は幾分違っていた。この能力は死者を血肉に飢えた獣犬に変貌させる事はできても、死者が踊り人々へ幸福を与えるといわれる『ジョーカー』の力には程遠い。

 暗室の中で頭を抱えるベイカーの背後に、一人の大男が立っていた。

「よぉ、抜け殻。戻って来たか」

 ベイカーの、その声を聴いても、大男、トールは応じる様子はなかった。ただ佇むだけ、それはベイカーの鳴らす鈴の音に引き寄せられたからで、いままで、トールを喋らせていた魂と言える存在は、彼の肉体にはもう存在しなかった。


「はっ……。何がマジェスフィアだよ……。ふざけやがって……。朽ち果てた死肉は再生しないじゃねぇか……。こんなんじゃ駄目なんだ……。俺が求めていたのは! 俺が追い求めていたのは! こんな力じゃなかったんだ!」

 傷が出す猛熱にうなされるような声で叫びながら、ベイカーは実験のために使用した死者たちの乗せられた寝台を横暴に蹴り飛ばした。

 そして、錯乱するように目を泳がせ、荒い呼吸でしゃべり出す。

「グリードリバーに向かう……。もう、こんな街に様は無い……」

 ベイカーはその行動が無意味だと理解しながらも、沸き上がる感情を抑えられずにいた。

「失敗作ども、攪乱程度には役に立ってくれよ」

 その言葉に呼応するように、周囲で横たわる死者たちが一斉に動き始め、霊安室の扉を開け、一人、また一人と外へと出ていった。生きる者の血肉を求めるように。

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