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「南柯の夢」 外伝

『金肥』

作者: 岩槻はるか

『金肥』とは、百姓が金を払って買う肥料のこと。


 江戸時代中期以降、都市部の人口増加により近郊農家での野菜栽培が活発になったことや、大名家がコメ以外の商品作物 ―― 茶・菜種・木綿・楮等の販売で歳入を増やすため、購入肥料で土壌改良をおこない、生産性向上を図った結果、干鰯・油粕等の金肥の需要が高まった。


 そして、比較的安価で手に入る金肥といえば、人糞……そう、おれたちのウ●コだったりする。




 会津屋敷では、長年、葛西の名主に厠の下肥汲み取りを委託している。


 名主は、汲み取り権を配下の村人に小分けにして売り、日々の作業は買い取った者が交替でおこなう。


 屋敷内にはいくつもの厠があり、朝から昼にかけて収集したあと、和田倉堀に係留した葛西船に肥桶を積んで運んでいき、圃場まで運んで熟成させてから利用している。




 ところが、最近、わが家の下肥をめぐって熾烈な戦いが勃発した。



 ときは、安政三年。


 あの大地震から半年ほど経ったある日、以前から取引のある下掃除人 ―― 葛西の名主が上訴してきた。


 なんでも、下肥の買い取り価格のことで困っているとか。


 そこで、さっそく担当官を呼び出し、話を聞くことにしたのだが……


「わたしの大●ひとつが、小判一枚じゃと!?」


 いくらなんでも、べらぼうすぎる。

 葛西のお百姓さんたちが嘆くのももっともだ。


「たしかに当家は昨年の地震で倒壊した屋敷の再建等物入りゆえ、下肥を高く買い取ってもらえれば助かるが、さすがにただの排せつ物に、そこまで吹っかけるのはいかがなものか」


 ここ数年、屋敷の食事を栄養価の高いものにかえたので、以前よりいい肥になっているから、多少値上げしてもいいとは思うけど……。



「なれど」


 管轄外の案件なのに、なぜかしゃしゃり出る般若。


「殿はお小さいころよりご病弱でございましたので、用足しは樋箱にしていただき、殿のブツはそれがしがよう吟味し、健康状態をチェックしたうえで、専用肥溜に入れ、藩邸内で栽培する蔬菜の肥料にしておりました」


 大野……おまえ、そんなことまでしてたのか?


 てか、ちょんまげ頭でナチュラルに『チェック』とか言うな。


「ゆえに、殿のブツは厠には入っておらず、屋敷の下肥とは別に、殿のブツだけを買い取らせることは可能でございます」


 こら、『ブツ』とはなんだ『ブツ』とは!


(……ん?)


 待て待て。


 ってことは、俺は自分のウン●で育てた野菜を食ってたってことか!?


 うげ~~~!!!

 

「ご心配めさるな。ブツは一度発酵させてから使用しておりますので、ダイレクトにブツを口にしているわけではございませぬ」


 相かわらずのサトリが気休めを言う。


「さて、本題に入りますが、昨年の地震以降、殿はタケミカズチノカミ・イワイヌシノカミに並ぶ存在と目され、神格化されております。そのブツを肥料にした作物を口にすれば、あらゆる災厄から逃れられると考える者が出るのは当然にございます」


「それで一両の値がついたか」


「御意」


 なんでも、一両で買い取りたいと申し出たのは、土方歳三の義兄・佐藤彦五郎らしい。


 じつは、大政参与に復活したとき、内藤新宿西の幕領の一部を下賜されたのだ。

 

 これは、彦根の井伊家が世田谷に土地をたまわったのと同じで、幕閣として在府期間が長くなるため、領地から農民を呼ぶのも大変だから、こまごました雑作をやらせる作業員を領地という形でつけてくれたわけだ。


 しかも、この土地は前に井伊から借りて野菜を作っていた場所のすぐとなり。

 多摩地域に知己が多い佐藤は、そこでおれのブツから肥料を作り、多摩一帯を容さまブランド野菜の供給地として地域振興したいそうな。


 ところで、今回なんでモメているかというと、葛西のお百姓さんが汲み取っている下肥には容さん()の●ンコは入っていないのに、葛西産野菜を容さまブランドで売ろうとしていたのが発覚して、「殿の名前を使うんだったら、それなりの対価を支払って」と要求したところ、名主が泣きついてきたという流れ。


 まぁ、おれのウ●ンコ(あ、伏字になってない!)が高く売れるなら、絶対そっちのほうが……(ごにょごにょ)……名主にはあきらめてもらって……(ブツブツ)……。



「しかしのう……そこまで崇め奉られると、むしろ不安じゃ」


 どこかで聞きかじった話だけど(おやじがトイレに忘れていったプレジ●ントか?)、未開社会では宗教的権威をもつ君主が力を失うと、そいつを殺したやつが新しいトップになる『王殺し』の風習があるとか。


 俺の予知能力は、たまたま未来知識があったからで、タケさんやイワイさんたち神話のかたがたと同一視されて、信仰的憧憬なんか持たれたら、それが破綻したときの反動がコワイ。


 ……『王殺し』?


(ブルブル)



 なんだかんだ紆余曲折はあったものの、結局、容さん(おれ)のブツは佐藤ら多摩のお百姓さんたちに下げ渡され、文字どおり『金肥(小判の素)』となった。


 そして、その肥料をほんのちょっぴりでも入れた畑で栽培された野菜は『肥後さま野菜』として、江戸っ子たちにもてはやされたのだった。



 めでたしめでたし




挿絵(By みてみん)

(無料のAIさんに描いていただいたイラスト。お題は、幕末の江戸を歩くイケメン武士とその護衛っす

……うーん、江戸ねぇ……京都っぽくないか?)






じつは、この話、のちにちょっとだけ本編にかかわってきたり、こなかったり……覚えておいていただけると、「おお! アレか!」となる予定なのです。


※ 俺くんが覚醒したばかりのとき、大野がトイレに連れて行ってくれるシーンがありましたが、あのときは小でした。

大野は、容さんの微妙な顔色の違いで、大か小かを100%の確率で判別できるのでございます。

(なんちゅー注釈や!)



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― 新着の感想 ―
[一言] 大政参与解任騒動の時さぞ新撰組関係者が騒いだだろうなと思っていましたが、こんなものまでブランド化しましたかw もうアレだね、容さん死後に天神さまと関帝併せたような学問、農業、商売の神様にされ…
[良い点]  文字通り黄金色のンコ!(´⊙ω⊙`)なんぼ偉人のブツとは言えしゅごい(引くわー)そしてクソ真面目な顔で○○を睨み主君の日々の体調を吟味していた大野さんの研究者のような目線(ドモホ○ンリン…
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