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彩悠記  作者: 凪沙一人
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猪維絲

 ギギギと軋むような音を立てて真希が扉を開いた。

何者にゃにものれしゅ!? 」

 扉の中で幼い少女が身構えた。

「あの方が水神様ですか? 」

 他に人影も見当たらなかったので彩が真希に確認すると真希は笑いを堪えて首を横に振った。

「いやいやいや。そんな訳ない。おい、猪猪じゅうじゅう。水神様はいらっしゃるか? 」

 すると少女は顔を真っ赤にして膨れた。

「しょの呼び方は止めてくらさいと申したれしょ! 」

『お絲、少し静かに。』

 少女の後から声がした。その姿を見て今度は思わず彩が身構えた。

「も… 魍魎!? 」

 彩の反応を見て真希はやっぱり、という顔をしていた。

「だから、くれぐれも冷静にって言ったろ。その点、旦那さんは落ち着いたもんじゃないか。」

 真希の言うとおり悠は落ち着いていた。見た目は人成らざる姿をしており魍魎のような姿をしている。しかし、悠は最初に人の言葉を話す魍魎と出会っているので驚きが薄かった。

「えっと… 人を害するのが魍魎で益を成すのが水神様… という事でいいですか? 」

 悠は率先して話しかけた。言葉が通じるのであればコミュニケーションはとれるだろうし、いきなり襲ってくるようにも思えなかった。だが、その横でお絲は少し苛ついているようだった。

(水神様になんたる言葉遣い! )

 言葉に出さずとも顔に出ていた。それを察した真希が宥めるように押さえていた。

『理解が早いのぉ。次期九条禰宜になられるらしいが… どうにも面妖な存在でおられる。端的に言えば霊力の塊… というか霊そのもののように感じられる。それに夫妻と伺ったが気配は1つしか感じられない。これは… よもや… 』

 水神様はそこで言葉を止めた。

『ふむ。あまり詮索するものではないな。さてと師範代、伊達真希を用心棒として雇いたいとか。どうせ真希の方から売り込んだのでしょう。御迷惑をお掛けする。迷惑ついでと言っては何だが、お絲も連れて行っては貰えぬか? 幼い頃から岩窟ここを出た事がない。そろそろ見聞を広めてやりたいが、この姿では儂が連れ歩く訳にもいかぬでな。』

 彩からすれば、悠が普通に水神様と会話をしているのが不思議だった。真希としては見た目だけで水神様を魍魎扱いしなかった悠に好感を抱いていた。お絲はと言えば、岩窟の外に出られるというだけではしゃいでいた。

『これ、お絲。これから御世話になるのだ。きちんと御挨拶なさい。』

 水神様に言われて、お絲は慌てて彩と悠の前に一直線に走ってきた。

「まさに猪突猛進だな。」

 真希の言葉にお絲はあっかんべーをしてから再び二人に向き直って頭を下げた。

「おはちゅにお目に掛かりましゅ。猪維絲ちょこれいとと申しますしゅ。お絲とお呼びくらさいませ。」

「猪猪でいいじゃん… 」

 お絲は一瞬、真希を睨み付けた。

「このような武骨で剣術だけが取り柄の無作法者よりも、きっとお役に立ってみせましゅ! 」

「お絲ちゃん、よろしくね。」

「はいぃ! 」

 舌足らずではあるが芯は確りしていそうではある。一人っ子の彩も妹が出来たようで嬉しかったのだろう。彩がお絲や真希と談笑している間に水神様は悠を呼び寄せた。

『お主も災難じゃったな。異世界から、九条の娘と魂結びをされたのじゃろ? 』

(えっ!? )

 さすがは神様というところだろうか。どうやら何故、悠がここに居るのかを察したらしい。

『あれは禁術、人間が使える術法ではない。人間以外の誰か(・・)が禁忌を冒したのであろう。このまま九条の婿になってよいのか? 』

(えぇ。元の世界じゃ死んだ身ですから。それに第二の人生、前の世界と違って僕を必要としてくれる人も居ますしね。)

『なるほど、覚悟は出来ているという訳か。ならば、この式を与えようではないか。お主の霊力で動くから、霊力を制御出来んうちは使えぬがな。』

 そう言って水神様は悠に青と白の二枚の御札を手渡した。

『先を急ぐのであろうが宵闇は魍魎も跋扈しよう。今宵は泊まり明日、日の出と共に旅立つがよかろう。』

 この日は水神様の歓迎を受けてから眠りについた。一つわかったことはお絲は意外と料理が上手な事だった。魍魎が跋扈する世界で野宿は避けたいところだが宿が必ずとれるとも限らない。料理の出来る存在は心強い。翌日、夜が明けると予定どおり出立した。一番、元気なのは、まるで楽しみにしていた遠足に出かけるような気分のお絲であり、一番、眠たそうなのは真希であった。

「なぁ、九条っていやぁ禰宜の中でも名門なんだろ? なんで馬にも乗らずに歩きなんだ? 」

 真希としては歩きの道中というのに多少、不安があった。彩は有名人である。野盗に狙われるかもしれないし、那津のように逆恨みをする者が他にも居るかもしれない。水神様のいいつけとはいえ、お絲のような幼子を連れての旅ともなれば足取りも遅くなるだろうと考えた。しかし半日も経つと足取りについては杞憂に終わりそうだという事に気がついた。

「大丈夫れすか? 」

 お絲が真希の顔を覗き込んでいた。

「なんで皆、武家のあたしより体力あるんだよ? 」

 真っ先にバテたのは真希だったからだ。

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