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憶測

「姉様達を見つけたら助け出すつもりだった。だが、あの惨憺たる様相の姉が発した言葉を理解した時、動けなくなってしまったんだ。連れ出す以外にも、その場で一思いに生を終わらせてやる事だって出来た…。そんな選択肢すら思い浮かばない程、姉の姿に恐怖した。何も出来ないどころか、逃げ出したんだよ」

 

 沈黙が場を包む。

 クラウディアの口から紡がれた皇家を巡る回想録は、凡そ現実の出来事だったとは到底思えない異質さと悍ましい内容だった。

 帝国貴族の銀髪銀目に執着するが故の異常さや近親相姦ですら厭わない優生思想、神殿で行われていた非人道的で悪辣な人体実験。それら全て何もかもが気味が悪い。

 自分も同じ皇族の血筋であるという事実に嫌悪感が湧き立つ。

 クラウディアもガブリエラも、皇家の実態と血族が蹂躙される様を知った時どう受け止めたのだろう。

 ……母は、どこまでご存知だったのだろうか。


「……ある程度の話は先代族長から伝え聞いておりましたが…それほどまでとは…」

 

 クロノが苦渋に満ちた表情でぽつりと言葉を漏らした。

 

「詳細を事細かに報告したのは当時の長と十人衆だけだ。皆引退して入れ替わっておるからな。人体実験の記録日誌だけでも持ち帰りたかったが、警戒されてはその後の調査に関わる」

「皇太子とその婚約者は見つからなかったの?」


 レインの問い掛けにクラウディアは短く息を吐いた。


「ディート兄様とエミーリエ様は、私達が神殿へ潜入した時には別の場所に移送されていたらしい。数年間捜索を続けたが、結局は一目会う事も叶わず消息不明だ」

 

 一通り話し終えたのであろう、クラウディアは物悲しい笑みを浮かべた。

 ルカも質問を投げかける。

 

「……当時、帝国には皇帝とガブリエラ様、弟君のクリスティアン様しか皇族が残らなかったはずですが、父君亡き後はクリスティアン様が帝位についたのでしょうか?」

 

 母であるアレクシアも、王都チェスターで遭遇したルカの双子の兄ハーデスも、銀髪銀目だった。

 自身も同じ色を纏っている。

 血脈は途切れていない。

 まさかガブリエラ様は、父親である皇帝か弟であるクリスティアンとの子を産んだのか。

 クラウディアが潜入した神殿での研究日誌には、フロレンツィアが銀髪銀目の子を授かる事が出来ず、研究員達は同じ帝国の皇族を『胤』『器』として欲していた。

 となると、極めて近しい血を持った者同士でしか銀髪銀目は引き継がれないのでは無いのか。

 恐ろしく気味の悪い吐き気を催す程の想像を、否定する言葉がどうしても欲しい。

 

「父の後に帝位についたのは、クリスティアンの息子。私が帝国から逃れて数年後には公爵家の令嬢がクリスティアンと婚姻を結び、銀髪銀目の娘が一人と息子が二人、産まれたと発表されている。病気がちなクリスティアンは皇太子のまま父より先に他界した。30歳を迎えられずに」

 

 昔語りを聞く限り、とても仲の良い姉弟関係だった。

 愛する弟を帝国に残したまま、死に目にもあえなかったのはクラウディアにとっては、身を引き裂かれる想いだっただろう。

 

「ガブリエラ様やフェリクス様はどうなりましたか?」

「ガブリエラ姉様は病を患い、皇女宮に引きこもったまま10年も経たずにこの世を去った。フェリクス様は数年の後に領地へ渡ったそうだ。元々ロイヒテンブルク公爵家では長男が皇都に残り儀典官に、公爵領は次男のフェリクス様が引き継ぐ予定であったからの」

 

 ルカが相槌を打つ前にクラウディアは続ける。

 

「というのが、表向きの話だ。ルカ、お前さんが知りたいのは銀髪銀目の血筋をどうやって残したのか、だろう?」

「……仰る通りです」

「帝国では皇太子以外の皇族は、4つある公爵家のいずれかへ降嫁・婿入りする。皇家の血筋を分散させない為だ。皇妃・皇太子妃となる娘もまた、公爵家から選出される。四公共に、初代公爵は皇家の者。皇族が輿入れしていない期間が長く続いても、時折銀髪銀目の者が産まれた。先祖返りのようなものだ。ディート兄様の婚約者であったエミーリエ様もそう。エミーリエ様のご両親は一般的な髪色と目の色をしていたが、彼女は銀髪銀目で産まれた」

 

 クラウディアは続ける。

 

「クリスティアンの妻となった公爵家の令嬢は、金色の髪に青い瞳だったそうだが、産まれた子は銀髪銀目だった。皇家の血筋は守られたわけだ。公式の発表が事実ならばな」

「……事実は、そうではない?」

「真実は分からんよ。だがな、ガブリエラ姉様は病で皇女宮に篭っていたのではない。突然消息を絶ったのだ。皇城のどこかに監禁されているのではないかと疑ったフェリクス様が、忍びの者達と探っていたのだが…その動きを嗅ぎつけられてしまい、強制的に公爵領へ連行された。姉様の消息を掴めぬまま、第二皇子誕生の報と共に、ガブリエラ姉様の訃報も伝えられたんだ」

 

 胸糞の悪い推測が頭をよぎる。

 血筋の濃い公爵家でも銀髪銀目を持つ子が産まれるのは先祖返りだと言われる程に稀なのである。

 神殿で見つけた研究日誌にも、被験者とフロレンツィアとの間に銀髪銀目の子は成せず、同じ血脈同士で交配させたいが為に皇族を欲していた。

 にも関わらずクリスティアンと婚姻を結んだ金髪青目の令嬢は、銀色を持つ者を三人も産み落とせるのだろうか。

 クラウディアも口には出さないが、ルカと同じような憶測を立てているのかもしれない。

 

 確実に銀色を持つ後継ぎを産ませる為、ガブリエラは実の弟との近親交配を強要され監禁されたのではないかと。


 何も言葉を発せずにいるルカに、クラウディアは穏やかな声音で言葉をかける。

 

「今日はここまでにしよう。だいぶ日も翳ってきた。また明日、ここに来ると良い」


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