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血鉱石

 資料室の向かいにある部屋へ入ると、室内は通路や他の部屋に比べて煌々と明かりが点されており、広い部屋でありながらも全体を見渡せた。

 手にしていたランタンの火を消す。

 室内を観察すると、中央の長机には書類と何かの赤黒い石が大量に積まれ、壁際に一人用の机と椅子が7つと7脚、入ってきた扉の反対側の奥にはまた扉があった。

 一人用の机には様々な器具が雑然と置かれている。

 紙ヤスリや石工ハンマーやノミなどを見るからに、長机に積まれている赤黒い石を加工する作業場なのだろう。

 嗚咽は止まったものの未だ呆けたままのクラウディアからアサギは手を離さず、長机に置かれた書類を読み、赤黒い石をクラウディアに渡した。

『……これが血鉱石のようです。帝国産の鉱物を溶鉱炉で溶かして金属成分を抽出し血液と混ぜ合わせたものと、表記されています』

 渡された血鉱石を掌に乗せ、握りしめる。

 加工される前の鉱石はクラウディアの肌を傷つけたが胸の痛みの方が強烈で、掌には血鉱石の冷たさしか感じない。

 

 しばらくの間そのままでいたが、奥の扉から人がやってくる気配を察してアサギがクラウディアを壁際の隅へ追いやる。

 息を詰めるようにして微動だに出来ずにいると、扉を開けて白衣を着た研究員のような姿をした男が入ってきた。

 壁際で息を殺してアサギの背中から研究員の動きを観察していると、男はクラウディア達に気付きもせず一人用の机に向かい、引き出しから何かを取り出し、また奥の扉の先へと帰っていった。

 足音が去り室内を静寂が包む頃、やっと息を付けたクラウディアは、自身の施した水の操作の能力の効果に安堵する。

『……いくつか、持ち帰りましょう』

 姉達が身罷っているか生存しているか分からない状況だが、ある意味皇家の形見のようなもの。

 山積みにされた加工前の血鉱石を、無くなったとバレない程度の量をポケットに詰め込んだ。

 入ってきた扉からまた通路に出て、分かれ道の所まで戻る。

『この通路の先を確認したら神殿から脱出しましょう。……付き合わせてごめんなさい』

 三つある内の最後の通路の先を見据え、力無く謝罪を述べるクラウディアの震える手を握り、アサギは

『貴女は俺がお守りします。最後まで』

 そう言って、クラウディアの目線の示す先を同じように見つめた。





 通路を真っ直ぐ進むと、突き当たりに扉が一つあるだけだった。

 アサギが扉に耳を当て、中の様子を探る。

 クラウディアに目線を送り小さく頷くと、ものの数秒で解錠し、分厚い扉を物音立てずに慎重に開けた。

 二人は静かに室内へ滑り込むと、部屋の中は甘ったるい匂いで満ちている。

 アサギは急いで手荷物を漁り、2枚の布へ液体を振り掛け、片方の布でクラウディアの鼻と口を覆い、アサギ自身も口元を覆う。

 どうやら何かしら人体に影響のある香が焚かれているようだ。

 布に振り掛けた液体のスッキリとした香りで、思考も戻ってきた。

 

 その部屋は、これまでのどの部屋とも様相が一変していた。

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