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発現

「発現といえるのかは分かりませんが……ある時から、自分の発した言葉通りに相手が従うようになりました。特定の人物には効果がない事はありましたが」

「発した言葉の通りに従わせる、か。特定の人物はどういった人間だい?」

「旅の道中で出会った少年と、レインです。少年は、私と同じように不思議な能力を持っているのですが、皇家の血脈ではないはずですが」

「そうか。レイン、アレを持っているだろう?」

「あっ、ババ様から貰ったこれ〜?」

 レインは胸元から革紐に結ばれた赤黒い石を取り出し、クラウディアへ渡す。

「これはな、血鉱石と言う。皇家の女達の血で作られた鉱石だ。シェルバーンの大神殿を調べていた時に見つけたものだ。クロノも身に付けているだろう?」

「はい、ここに」

 クラウディアの背後に控えていたクロノが、中指に嵌めた赤黒い石のついた指輪を掲げる。

「この石は皇家の女の発現の能力を相殺するもの。あやつらは姉様や兄様を監禁して、非人道的な研究をしておった」

 クラウディアは憂いを帯びた表情で、そっと溜息をついた。

「私やガブリエラ姉様は水や植物といった自然を利用した能力だったが、歴代の発現者には対人に影響を与える能力を持つ者もいた。それが初代皇妃殿下とお前さんだ。だが、対人への能力は皇家の血脈には効果が無い。それを証明する為に作られたのがこの血鉱石だ」

 ルカへ見せていた血鉱石の首飾りをレインへ手渡し、クラウディアは話を続ける。

「二人には護身の守りとして肌身離さず身に付けさせておる。お前さんの能力"隷従声"はこの二人には効かんだろう。レイン、少年についての調べは?」

「もちろん調査済み!ユノくんはね〜、この国のとある貴族に買われた後、実験されたみたいだね〜。見た目の良い少年少女を集めて虐待して、定期的に薬を摂取させて不思議な力が発現出来るかのね。薬の中身は神殿で作られたものだと思うよ〜。大半の子供達は身体が薬に耐えきれなくて死んじゃったみたい」

 ルカは驚愕に目を見開く。

 人身売買組織から助け出した後、どんな経緯があったのかを彼からは全く聞かされていなかった。

 ユノは身体中に酷い傷痕が残っていたので、外道から鬼畜な扱いを受けてはいたのだろうとは思っていたが、想像以上に凄絶な話だった。

 舌が乾いて肌がピリつく。

 激しい怒りの衝動に、心臓が早鐘を打っていた。

「……許せない…!!」

「ルカちゃん、落ち着いて〜。ユノくんは無事なんだからさぁ」

「ユノは身体中傷だらけだった!出会った時は何もかもを諦めたかのような顔をしていて…そんな目に遭っていたんだとしたら、私が…」

「相手の貴族を殺す〜?それとも、薬を作ったやつらを特定して壊滅させる?タクシスの追手から逃げ回りながら?途方もない時間と労力がかかるよね〜。トロイに行くんじゃなかったの?ルカちゃんの目的は、悪党退治じゃないでしょ」

 ルカの言葉を遮り、レインが淡々と冷静な意見で諭す。

 正論だった。

 ソワソンの人身売買組織の件の時も、あの中性的な声にも釘を刺された。

 寄り道をしていていいのか、と。

 ユノの過去を知り、自身に沸き立つ怒りを治めるためのただの自己満足に過ぎないのかもしれない。

 欺瞞に満ちた己れの思考に吐き気がしてくる。


「まあまあ、そんなに眉間に皺寄せて悩まないで〜。ババ様、発現の発動条件って何なの〜?」

 レインが話を変えようと、クラウディアへ尋ねる。

「私の場合は湖に落ちたクリスティアンを助けようと願い、水操作を発現した。ガブリエラ姉様は母に花を見せようとして植物の成長促進の能力を。何かを強く願った際に発現しておる」

 その話を聞いて、ルカはハッとした。

 自分が発現したのは、人身売買組織の拠点でウィルが少女を強姦しようとした時だ。

 どうしようない状況下で、狼藉を止めたいと強く思ったのが作用したのか。

「……私がこの不可思議な力を初めて行使したのは、嬲られている子供を助けようとした時でした」

「なるほどね〜。ユノくんが逃げ出した貴族の屋敷は燃えて跡形も無くなってるんだぁ。ユノくんは炎を出す事が出来るみたいなんだよね〜。彼も何かを強く願ったのかな」

 その当時のユノが置かれた環境は想像を絶するものだ。

 全ての人間を救いたいなどと、聖人君子な気持ちは毛頭無い。

 それでも、自分ですら気付かず抱えていた寂しい心に、寄り添って包み込んでくれた彼だけは、ルカにとっては変え難い特別な存在だ。


「……もう一つ、お聞きしたい事が。私は幼少期に負った怪我で目が見えていませんでした。パヴァリア村が襲撃を受けた際に、母が私の目を両手で塞いだあと傷痕ですら跡形も無く消え去り、視力が戻ったのです。それ以来、どんなに深い傷を負っても数時間もすれば完全に塞がるようになりました」

 自身の異常なまでの回復力はずっと疑問に思っていた。

 怪物に襲われ腕が皮一枚で繋がっているような状態でも、無理矢理くっ付けていれば元通りになっていた。

 パヴァリア村が襲撃を受けたあの日に、母が何かをルカに施したのではないか。

「今の話から考察くらいしか出来ないが、おそらくは譲り受けたのであろう。発現した者は同じ血脈の者に自身の能力を譲渡出来る。歴代の皇帝に、皇家の女から能力を譲り受けた者がいた。譲渡する側の身体に過剰な負荷がかかり命を落とす者もいたから、それが行われる事自体はあまりなかったようだがの。お前さんの母は、治癒に特化した能力を発現していたのかもしれぬ」

「母上も、発現していた…」

 だがまだ分からない事もある。

 幼少期から12歳までの記憶に残る母は、身体が弱く病気がちだった。

 どんな薬も薬草も劇的な効果は無く、日々を寝台で過ごしていたのだ。

 母に関してはまだまだ謎が残っている。

 どのような経緯があって、兄であるハーデスを残したままルカを連れて他国へ出奔したのか。

 何故あの時まで、帝国の追手に見つからずにパヴァリアに隠れ住んでいられたのか。

 トロイへ行けば答えがあるのだろうが、それを知って自分は何を思い行動するのだろう。

「風が出てきた。続きは母屋に戻ってからだ」

 クロノがクラウディアを支えながら立ち上がらせる。

 遠くから耳に届く、滝の流れ落ちる水飛沫の音がやけにルカの頭へ響いた。

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