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声の正体

「ここまでが、私がこの里へ移り住む事になった経緯だ。疲れたろう、今日はこれまでにするかい?」

「いえ、出来ればこのまま、お話をお聞かせ下さい」

 ルカが食い気味に続きを促す。

 その必死な様子に、クラウディアはフッと口元を緩め穏やかな笑みを浮かべた。

「……よかろう。では、昼食を挟もう。今日は陽射しも暖かい。縁側に用意をしてくれまいか?」

 クラウディアの言葉に、レインがすぐさま部屋を出て行く。

 寝具に座したままだったクラウディアを、クロノが支えて立ち上がる。

 そのままクロノが介添えをしながら、レインが出て行った横開きの扉から出ていくと、庭に面した廊下に薄型のクッションのような物が二つと、火鉢が置かれていた。

 クロノがクラウディアを、そのクッションのような敷き物へ座らせ、彼は背後へ控える。

「座布団に座りなさい」

 クラウディアの手招きで、ルカもその敷き物へ座った。

 廊下に面した霧がかった庭の池を眺めながら、少しの間を沈黙が場を包む。

 庭には、枝に蝋燭のような色の薄黄色の蕾が付いている低木があった。

 花は開いてはいないものの、微かに良い香りが漂ってくる。

 少し歩くと滝があるのだろう。

 ルカの耳に滝壺に落ちる水飛沫の音が届く。

「あの蕾が連なった木は蝋梅と言っての、花開けば良い香りが広がるんだ」

「今も少しだけ、甘くて良い匂いがしてます。あと、近くに滝が?」

「五感が鋭いのう。この先に滝がある」

 そう言って、庭の奥の方を指差す。

「先程の、声との対話をした滝ですか?」

「そうだ。今はもう聞こえんが」

「……私も、幼少期から声達を聞いていました。子供のような声でしたか?」

「そうだ、年端も行かない童のような声であった。お前さんが隠れ住んでおったのはパヴァリアだろう?あの地には神聖なる者達の宿木である御神木がある」

「……母が私に、古代語の知識を詰め込ませたのは、声達との対話が目的だったのですね。母には聞こえていないようでしたが、声については何か知っているようでした」

「知っていたであろうな。次世代の女達に引き継げるよう、姉が皇宮に何かしら文献を遺しておったやもしれん」

 クラウディアの話を聞き進めて行くうちに、母が言っていた"タクシス皇家は穢れた一族"という言葉の意味がまざまざと理解出来た。

「声とは、一体何なのでしょうか。私には子供達の声以外にも、中性的で底冷えのするような声も聞こえるのです。その男とも女ともつかない声の方は自身を"愚かな血筋だった者。意識の集合体"と言っていました」

 昨夜も頭に響いたあの不気味で不穏な声。

 あの声は、ルカが真実を知るのはまだ先だと言っていた。

「童達の声は、古代文明においての自然崇拝で生まれた神の使い達だ。彼らを"神使"という。古代では誰もが声を聞き姿を見る事が出来たらしい」

 あの不思議な声達には姿もあるらしい事に驚いた。


「男とも女ともつかない中性的な声については知らぬな。意識の集合体か……お前さんは歴代の皇家の血脈の中でも特に感応力が高いように見える。見目も、皇宮に飾ってあった初代皇妃殿下に似て麗しい。彼女も非常に感覚が鋭く、特殊な能力をいくつも発現しておったそうだ」

 やはりあの不気味な声については知らないようだ。

 ルカ自身、あの声が顕著に囁きかけるようになったのはパヴァリア村での事件の後だ。

 母にも聞けていない。

「昼食持ってきたよ〜」

 食事の載ったトレーを持ったレインが、クラウディアとルカの前にそれぞれトレーを置いた。

 彼も同じように縁側へ座る。

「昼もだいぶ過ぎちゃってるし、軽めにおにぎりと漬物にしたよ〜」

「ルカ、お前さんはしっかりお食べ。ここの土地で作った米と作物だ。この里は水も土も良い。身も心も浄化してくれるだろうて」

 確かに、この里に来てからはいつもより身体が軽く感じる。

 怪物達の出現も無く、休養を摂れているのもあるだろうが、食事も影響しているのだろう。

 握り飯を掴み、一口頬張る。

「……美味しいです」

「そうか」

 しばらくの間無言で食事を摂り、池と蝋梅を眺める。


「ルカ、お前さんはもう発現しているのだろう?」

 クラウディアは蝋梅に視線を投げたままルカへ尋ねた。

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