クラウディアの過去③
ディートフリートとエミーリエの葬儀から数日後、襲撃事件発生後から臥せったままだった母が、回復する事なくそのままこの世を去った。食事も喉を通らず痩せ細っていくのを止められなかったのだ。
立て続けの皇族の崩御に、皇宮内は混乱を極めた。
これまで以上に厳重な警備が敷かれ、皇宮に出仕する騎士や官僚や侍女やシェフ達までも、身元改めが行われた。
そんな中、ガブリエラが特殊な力を発現させたのが露見した。
元々、皇家の血筋の女は不思議な能力を発現させる事があるという伝承がある。
その為、血縁の近い公爵家で銀髪銀目の女が産まれると、その瞬間から皇家に嫁ぐのが決まっていた。
銀髪銀目の皇家の血筋を薄めないようにする為である。
皇太子妃であったエミーリエも皇家の従妹で銀髪銀目であったし、母である皇妃も別の公爵家の令嬢であった。
が、ここ数十年はそういった能力を持つ女性は現れなかったのだ。
姉ガブリエラが発現させた能力は"植物の成長促進"だった。
臥せったままの母に珍しい花を観賞させてさしあげたいと、他国から取り寄せた種を自ら庭園に蒔き、水遣りをした次の日には蒔いた種全てが見事に咲いたのだ。
ガブリエラはその能力を秘匿するようにと、その場に居た庭師には口止めをしていたが、様子を伺っていた護衛の近衛騎士が陛下へ報告してしまった。
その日から、父である皇帝陛下の娘を見る目が明らかに変わった。
議場以外ではガブリエラを常にそばに置くようになり、警備体制も更に強固なものになっていく。
父から姉への執着は日増しに酷くなり、本来なら翌年ガブリエラが17歳になったその日に、ロイヒテンブルク公爵家の次男フェリクスの元へ降嫁し、フェリクスと共に公爵家の領地経営を学ぶ為に皇宮を去る予定だったのを、婚約ごと解消してしまった。
ガブリエラとフェリクスは少しの歳の差はあれど、帝国を支える同志として認め合う姿は、クラウディアからはとても気高く眩しい関係に見えていた。
政略的な婚約でも、同じ目的の元仲睦まじく高め合っている様子は、そこに確かにお互いに対する情愛が育まれていたのに。
二人をよく知る筈の父が仲を引き裂くような事をするだなんて、息子と妻を亡くしておかしくなってしまったのかと思った。だが、姉に執着する以外は至って普段通りの冷静さで公務をこなしている。
『どうせ婚約を解消させられてしまうなら、もっと早くにこの能力が得られたら良かったのに。食糧や燃料も気にしないで良くなって、フロレンツィア姉様が連邦の人質にされる事も無かったのに』
父からの監視が薄い時間を狙って二人きりになれた際に、ガブリエラはそう言って悲しげに微笑んだ。
クラウディアが14歳になる頃に、他の姉妹達からは少し遅れたが初潮がきた。
身体つきも女性らしく丸みを帯びていくと、父はガブリエラに対してだけでなくクラウディアへの監視の目までも厳しくなった。
普通ならクラウディアの降嫁先の選定も始まるはずなのに、一向にその気配は無い。
それも仕方がない事だとは分かっていた。皇家を引き継ぎ帝国を担うはずの皇太子と皇太子妃を亡くし、国母である皇妃も急死、第一皇女のフロレンツィアはシェルバーン連邦国で生涯を拘束され、立太子する予定のクリスティアンは病気がちで少し風邪を引くだけでも寝込んでしまう。
更には、クリスティアンを皇太子に据えた所で、皇家の血の流れを組む銀髪銀目の女が産まれていない。
血統を重んじる皇家の性質で血が濃いせいか、銀髪銀目は産まれつき身体が弱い者も多く、短命で生涯を閉じる者も多かった。
息苦しい皇宮内で身を縮めるようにして過ごし、時間があればクリスティアンの静養する離れの宮へ赴き、姉弟三人で身を潜める事が増えた。
健康的で快活だったガブリエラも日に日に窶れていく。
「ガブリエラ姉様はね、聡明で大胆な所のある人だった。フェリクス様との婚約は解消になったが、裏でバレないように二人で協力して、フロレンツィア姉様の状況を探っていたんだよ」
二人が情報を集めている事はクラウディアとクリスティアンにだけは話してくれていた。
手に入れた情報は教えてくれなかったが、フロレンツィアの置かれた状況が良くない事だけは、ガブリエラの様子から察せられた。




