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クラウディアの過去②

 クラウディアが13歳になったその年、帝国で大事件が起こった。

 領地視察で鉱山地帯へ向かったディートフリート皇太子と、その婚約者である皇太子妃になる予定だった公爵家の令嬢エミーリエが同乗していた馬車が、野盗に急襲されたのだ。

 帝国の近衛騎士が護衛任務で警護していたにも関わらず、圧倒的な人数差で囲まれ乱戦になる内に、皇太子らが乗っていた馬車の馬が暴れて現場から走り出してしまった。

 野盗達を殲滅し終えた騎士達が皇家の馬車を捜索すると、そこには粉々に破壊された馬車と、惨殺された皇太子付きの侍従と皇太子妃の侍女の死体が転がっていた。

 護衛対象である皇族の姿が見つからず、早馬からの報告を受けて応援に駆け付けた騎士達も合流して辺りを探すと、数キロ離れた山中に斬首された遺体が二つ、大木に寄り掛かるようにして置かれていた。

 服装からして、ディートフリートとエミーリエだった。

 斬首された筈の首は見つからず、遺体の寄り掛かっていた大木には"帝国滅ぶべし"との血文字が書かれていた。


 この事件で帝国の皇家も貴族も大いに揺らいだ。

 皇妃である母は衝撃で寝込んでしまい、皇帝陛下である父は皇太子の首を隈なく捜索させ、睡眠も摂らずに公務と襲撃の首謀者の捕縛と、野盗の残党狩りへの指示を飛ばしていた。

 姉のガブリエラと弟のクリスティアンも、あまりに突然の出来事に兄の死を信じられないでいた。


 数ヶ月経って首の捜索も打ち切りになり、氷室に保管していた兄と公爵令嬢の葬儀も執り行われる事になった。

 最後に一目だけでもと、体調の悪い弟抜きで姉と二人で遺体に会いにいくと、正装した首の無い兄の遺体をじっくり観察した姉のガブリエラが、私にだけ聞こえる程度の小さな声でボソッと呟いた。

『ディート兄様では無いわ』

 姉の呟きにハッとしたクラウディアは、兄である遺体の手首を確認した。

 そこにある筈のものがなかった。

 フロレンツィアが帝国を去る際に私たち兄弟に渡した手作りの黒い組紐。

 離れていてもずっと兄弟姉妹でいる証だと言って、黒い紐とフロレンツィアの銀の髪が編み込まれた特製の御守りだった。

 ガブリエラとクラウディアは足首に、ディートフリートとクリスティアンは手首に。

 それが無いのだ。

『…襲撃を受けた際に切れてしまったのでは?』

 周りに聞こえぬよう小さな声で囁くと、

『手首に何かが擦れた痕も傷も無いわ。…ディートは連れ拐われたのかも』

 兄に別れを告げるフリをしてディートフリートの手を摩り、周りに控える者達に不審に思われないよう手首を確認したガブリエラが、確信の目でクラウディアに返した。

 二人でそう結論付けても、曖昧な情報でこれ以上帝国の情勢を惑わせることも出来なかった。

 それから一ヶ月後、帝国をあげて皇太子と皇太子妃の葬儀は執り行われた。

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