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クラウディアの過去①

 今から約70年前、クラウディアはタクシス帝国第三皇女として生を受けた。

 優しく穏やかな母と、君主然とした厳格で冷徹な父。

 そして、歳の離れた長女のフロレンツィアと三つ上の次女ガブリエラ、二つ上の長男ディートフリートと、病がちな三つ下の弟クリスティアン。

 

「ディート兄様は皇太子教育で忙しかったから、クリスティアンと私の遊びにはガブリエラ姉様が相手をしてくれて、フロレンツィア姉様はいつも静かに微笑んでいたよ」

 

 銀髪銀目の美しい家族を持ち、兄弟姉妹の中でも奔放だったクラウディアを姉も兄もよく可愛がってくれていた。




 

 当時は90年続いた大陸戦争の終盤だった。

 国同士による領土拡張の諍いは、講和条約と諸外国それぞれの領土ラインが確定し、公的文書に纏め上げられる段階になれば、国境沿いでの小さな紛争や、食い扶持にあぶれた元傭兵達による野盗問題程度にまで収まってきていた。

 軍事力の低い小国家は吸収され、トラキア大陸は西のサヴォイア・北のタクシス・南のエッシェンバッハ・東のレーゲンスベルク・中央のシェルバーンの五つの国で纏まった。

 より多くの小国家を吸収せしめたタクシスは帝国として地を治め、良質な鉱石を大量に産出する北の地の大半を統治するまでに至ったが、90年続いた戦争で国力は疲弊し、財産没収に食糧統制と兵役により、国民達の皇家や貴族に対する反感は凄まじいものだった。


 そんな中、中央に位置するシェルバーン連邦国が、タクシス帝国のフロレンツィア第一皇女を要求したのだ。

 連邦の中央城塞都市ラーナにある、女神信仰ハルペイア教会の大本山である大神殿へ、第一皇女を奉仕者として迎え入れたいとの打診だった。

 第一皇女を引き渡せば、タクシスとシェルバーンでの輸出入の制限を撤廃し、小麦などの食糧と燃料を格安で売り渡すと提示してきたのだ。

 皇家の血筋を食糧と引き換えに他国へ売り渡す事に帝国議会は大揉めに揉めたが、シェルバーンとの和平を進める為にも無碍に断る事も出来ない。

 また、ここ数年帝国では豪雪の被害もあり、食糧や薪の備蓄も底を突き掛けていた。切り立った険しい山々に囲まれた帝国では農作物を量産するのが厳しい。このまま策を講じなければ、翌年の春までに餓死者と凍死者で溢れてしまう。

 何より、国民感情を抑え込むためにも第一皇女自身が赴きたいと強く主張した。


 交渉は成立。

 16歳のフロレンツィアは神殿で生涯を女神に捧げる為にシェルバーンへ向かった。

 クラウディアが8歳の時である。

 

「フロレンツィア姉様はとても高潔で清廉な人間でな……。女神ハルペイアを篤く信仰している敬虔な信徒でもあった」

 

 それから数年は、半年に一度はフロレンツィアから近況を報告する手紙が届いていた。

 初めの頃は女神ハルペイアへお使いする事への嬉しさの詰まった内容だったのだが、年数を経る毎に短い文章になっていき、3年経過する頃には手紙すら届かなくなった。

 不審に思った帝国側から連邦へ、フロレンツィアの近況を尋ねる書簡を送れば、彼女は流行り病に罹り床に臥せっているが、連邦が用意した万全の医療体制の元治療に専念している。帝国側の介入は不要。との返答があった。

 病いの第一皇女を返還するよう、帝国側は何度も打診したのだが、同じ文書が届くだけだった。

 ただ無為に時間だけが過ぎていく中、更に2年の月日が過ぎ去った。

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