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ジュードとアカツキ

 翌日、ルカは日の出と共に起床を促され、数人がかりで念入りに湯浴みをさせられた。

 真新しい白い袷の衣に、腹に太めの帯を巻かれた為、苦しくて朝食があまり口に入らなかった。

「ルカちゃんかっわいい〜!聖女様みた〜い!」

「…もう少し、この帯を緩められないか?」

「着崩れちゃうからダ〜メ。我慢我慢」

 レインはおどけた調子で手でバッテンを作る。

「さっ!正装した可愛いルカちゃんを兄さんとババ様が心待ちにしてるから、そろそろ行かなきゃ〜!」

 レインが扉を開いてルカを促した。

 何だか今日はわざとらしいくらいに明るく振る舞って見える。

 昨日あの後、アカツキとは手合わせをしたのだろうか?

 気になって横顔を覗き込むと、頬や首に真新しいかすり傷が出来ていた。

「なになに〜?オレの顔に見惚れちゃってるの〜?」

 やはり、いつもより些かテンションが高い。

「…寝言は寝て言え」

「まっ!ルカちゃんたら冷たいのね!私泣いちゃう!」

 大袈裟に泣き真似までしてくる始末だが、レイン本人としてもこの異様なテンションの理由など聞かれたくもないだろう。

 空元気を振り撒くレインを無視してそのまま後をついていく。

 昨日少年達と遊んだ、屋敷の裏庭を抜けて行った先の崖まで来た。

 そのまま崖沿いに歩いていくと、岩場を掘るようにして築き上げられた階段が、崖の上まで続いているのが見える。

「ちょっとだけ登るよ〜足元気をつけてねぇ」

 ルカの衣服が動きにくいものなのを考慮してか、レインは一段一段ペースを合わせて登っていってくれた。

 それ程高さのある崖ではなかったからか、思っていたよりは長く階段を登らずに済んだ。

 崖上に到着すると、目の前にはなだらかな山道が続いていた。

「ここから山道を歩くけど、今の階段で疲れ切っちゃってない〜?」

 レインは意地の悪い笑みを浮かべながらルカを見遣る。

「舐めるな。今のお前よりは体力がある」

 正面からレインを見据えると、彼は少しだけ驚いたように眉をピクリとさせた。

 目の下には薄らとクマが出来ている。

「……あれぇ、やっぱりバレてた?手合わせが楽しくってさぁ〜ついついアカツキと朝方まではしゃいじゃって〜」

 レインは照れ臭そうに頬を指で掻きながら山道の方へ視線を戻し、ゆっくりと歩みを進め始めた。

「そういえばルカちゃん、今日もその黒い剣持ってきたんだねぇ。昨日も一日中背負ってたし〜」

 里の中を案内され、子供達の修練を見学する際も肌身離さず帯剣していた。

「……王都での反省だ」

 感謝祭で盛り上がる城下町で怪物に襲われた際は、黒剣を持ち歩いておらず苦戦した。

 一歩間違えていれば自身だけでなく、ユノの命まで危険に晒されたのだ。

 コーエンの機転のおかげで黒剣が手元に渡ってきた時はどれほど安心したか。

「なるほどね〜。まあ、警戒心を持つのは大事だよねぇ。何が起こるかなんて分からないし」

 最後の呟きだけ、やけに真面目な口調に聞こえた。

 そのまま黙々と山道を登り続ける。

「…アカツキ殿はどういった人物だ?」

「アカツキ?う〜ん……ジュードと同じくらい生真面目で、任務がなければ里の子供達の面倒を買って出る律儀なやつ〜」

 レインは少しの逡巡の後、変わらぬ歩みのまま答える。

「彼も十人衆なのだろう?かなりの実力者か?」

「まあね〜。十人衆の中でも上位じゃないかなぁ?ジュードは隠密や間者としては優秀だったけど暗殺は得意じゃなくて、その点アカツキはマルチに任務をこなせる忍びだよぉ。里の人間からの信頼も厚いし〜」

 ジュードが暗殺は得意ではないのだというのは驚いた。

 体術や剣技を習っている時も、常に最小の動きで相手の急所を突くように教わっていたのだが。

「あっ、アカツキはねぇ、ジュードと仲が良かったんだよ〜。歳も近いし真面目な性格も似てたしねぇ。まあ、ジュードは長期のお仕事が入っちゃって、そのまま里には帰って来なかったけど」

「……帝国への間諜任務か」

「そうそう〜。長期任務で不在なんてこの里じゃ当たり前だけどねぇ。任務失敗で命を落とす事だってよくあるし、亡き骸なんて帰ってこない」

 パヴァリア村でのジュードと母の最期の時を思い出す。

 あの惨劇の後にルカが目を覚ました時は、現場をくまなく探したがジュードの遺体は見つからなかった。

 母の亡き骸は帝国が持ち帰る算段をつけていたから、ジュードの遺体はそのまま放置されていたはず。

 野生の動物達に漁られてしまったのだろうか。

 せめて亡き骸だけでも回収して、自身の手で埋葬してあげたかった。

 悔しい想いが胸を駆け巡り、眉を顰めて歯を食い縛る。

 レインが前を向いたまま話していて、こちらの表情を見られないで済んだのは良かった。

「十人衆の中でもトップクラスのアカツキもね〜、結構長い期間の諜報任務中に大怪我負って、運良く里まで逃れたんだ〜。5年くらい前の話だけどぉ」

 レインは淡々と話しながら山道を登っていく。

「アカツキの頬に大きい傷があるでしょ?あれはその時に負った傷だよ〜。他にも身体中に細かいのが残ってるけど、大事には至らない程度で済んだから、追っ手から逃げられたんだねぇ。と言っても、余所者はこの霧に阻まれて侵入出来ないだろうけどさ」

「この霧はそんなにも凄いものなのか?」

「そうだよ〜。昔はこれほど濃霧じゃなかったんだけどねぇ。ババ様の体調が悪くなってから酷くなっちゃったぁ。あっ、そろそろ着くよ〜」

 レインの指差す方角を見ると、太い二本の朱色に塗られた柱が立っており、その先に人工的な石段があった。

 朱色の柱には、上部に横にも柱が二本繋がっており、巨大なアーチのように見える。

「あの柱は何だ?」

「鳥居って言うらしいよ〜。古代文明での神域を現すんだって。あっ、潜る前に一礼してね〜」

 レインはそう言って、柱の前で一礼をしてから石段に足を掛けた。

 ルカも遅れじとアーチの前で一礼をし、レインの後を追う。

 石段を登りきると、砂利の敷き詰められた道があり、その先に里の平屋造りの建築とはまた違った雰囲気の木造の家屋があった。

 床が地面と接しておらず、柱で支えているのが分かる作りだ。

 屋根部分は深緑色で、木々に囲まれたその家屋は自然の中に溶け合っているように見える。

 どこかに滝でもあるのか、水飛沫の音が聞こえるのも、神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 レインが家屋の段差を登り正面口に立つと、音も無く横開きの扉が開き、中から二人の年嵩のいった女性が跪いて頭を垂れた。

「お待ち申し上げておりました」

「お履き物はこちらでお脱ぎ下さい」

 そう言って屋敷の中へとルカ達を招く。

「行こうルカちゃん」

 この世ならざる幻想的な空気感に戸惑いを抱きながらも、ルカは足を踏み入れた。


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