表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/97

苦悩の夜

 部屋で夕食をとり、湯浴みを済ませて寝台へ潜る。

 虫の声も聞こえない静寂が満ちたこの冬の季節は、肌寒さだけではなく心まで虚しくさせる。

 ユノはコーエンにちゃんと匿われているだろうか。

 王都チェスターまでは毎日、ユノが寄り添って眠ってくれていた。

 ユノの暖かい体温と、耳に心地よい優しい寝息が頭をよぎる。

 昼間に子供達と遊んだからだろう。

 少年達に笑顔を向けられる度に、ユノの柔らかい表情が浮かんで仕方がなかった。

 (…今は明日について考えるべきだ)

 雑念を振り払い、ババ様とやらに尋ねる優先順位を思い浮かべる。

 まずは、この里の一族だったジュードとタクシスの皇妃だった母アレクシアについて。

 次に、皇家の血について。

 帝国の追手や怪物達の襲撃も。

 最後に、トロイに何があるのか。

 この4つに関しては、ルカが今一番欲しい情報だ。

『本当に知ってしまってもいいの?』

 底冷えのするような冷たい声が耳元で囁いた。

 久しぶりに聞く、男とも女ともつかない、中性的な声。

『逃げてしまえば楽なのに』

 ルカを嘲るように語りかけてくる。

『お前にはどうせ何も出来やしない。あの少年だって見捨てたじゃないか』

 "あの少年"とは、ユノを指しているのだろう。

「…見捨ててはいない」

『なら何故、迎えに行かない?』

「……王都にはタクシスの使者が居たからだ」

『もう王都からは出ていったと聞いたのに?』

 確かにクロノからの情報で、帝国の使者達は王都を出て北上したとは話に聞いた。

『あれだけ貴方を慕っていたのに、可哀想な子。見捨てられてしまうだなんてね』

「……黙れ…!」

 ルカには何も反論が出来なかった。

 あの時、ルカの双子の兄と接触してしまい、タイミングよく獣に連れ去られ、安堵したのは間違いが無かったからだ。

 だからといって、ユノと離れ離れになるのを覚悟して逃げる方を優先した訳ではない。

 偶然が重なっただけだ。

『お前が真実を知るのはまだ先だろう。それでも生きて足掻くか、全てを捨て去って消えるのか、お前の選択を楽しみにしているよ』

 捨て台詞のような囁きを残して、声は沈黙した。





 村内に点在する民家から離れ、霧が途切れて月明かりが照らす開けた平地で、二人の男が向い合っていた。

「アカツキとの手合わせ何年ぶりかな〜!」

「三年ぶりだ。お前は中々、里には顔を出さなかったからな」

 そう言ってアカツキは、少し寂しそうに笑んだ。

「探し物が見つからなくてね〜。時間かかっちゃったぁ」

「……そうか」

 時間は深夜を回っている。

 刺すような冷たい風が、静寂の中を切り裂くように音を立てて二人に吹き付けるが、両者共に微動だにしない。

 少しの沈黙の後、先程のおちゃらけた雰囲気を掻き消すような低めた声でレインが口火を切った。

「アカツキはどうするの?」

「……」

「やめる気は無いんだ?」

「……私は…」

「今ならまだ間に合うよ。まだ何も起こしちゃいないんだから」

 また、場を沈黙が包む。

 ついさっきまで身体に吹き付けていたはずの針のように刺してくる風も、いつの間にか無くなっていた。

 鋭い眼光での睨み合いが続いた。

「……これは私の問題だ。お前は関係無い」

 長い沈黙の後、レインの視線から逃げるように顔を背け、アカツキはポツリと呟いた。

 しばらくの静寂の後、フッと息を吐いて、レインはいつものふざけた調子の笑い顔になる。

「そっかぁ。仕方ないね〜。じゃあ、いくよ」

「ああ」

 ガキィッ!!

 金属音があたりへ響き渡る。

 レインの鎖鎌の一撃は、アカツキの手の甲に装着している鉄で出来た長い爪の形状をした暗器が受け止める。

 二つの影が重なり合い、すぐさま離れた。

「今も変わらず手甲鉤なんだね〜」

「お前は今日は鎖鎌か」

「何でも使えた方が便利でしょ〜?」

 夜闇の静寂は終わりを告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ