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十人衆

 アオイや子供達の実習に混ざり媚薬を完成させた後は、ユキによる女性の忍びとしての手練手管の講義だったのだが……違った意味で凄かった。

 子供達は恥ずかしがるでもなく真剣に聴き入っていたのだが、どうにもルカには刺激が強すぎて始終赤面しっぱなしだった。

「ユキ姉の授業も勉強になったでしょ〜」

「……少女達はまだ幼いように見受けられたが、この里では普通の教育なのか?」

「あぁ〜…うちでは女の子は初潮を迎えると成人女性として扱われるんだぁ。あの場にいた子で一番幼いのは10歳くらいかな?ここじゃ当たり前の教育だね〜」

 屋敷への帰路の道中、霧深い村内を夕陽が照らす中ゆっくりと歩を進める。

「かといって、みんながみんなユキ姉の授業で話した"手練手管"を使用するような任務を請け負うわけじゃないし、まあ基礎的な知識として共有してるってだけ〜。ユキ姉は特別ああいった任務が多いからね。あの手のスペシャリスト講師だよぉ」

 今日の講義内容を思い出す。

 会話術や、女としての色と肉体を駆使した対象相手の籠絡の仕方。

 生殖器の仕組みや快楽のツボ、そして床入りした上での男性の喜ばせ方や、その際の暗器の使用用途や体術に至るまで、事細かに実体験からの講義だった。

 明日からは、今日精製した媚薬を用いて耐性をつける為の訓練を行うそうだ。

「そういえば…初めてお前が私の前に現れた時の所作や話し方は、ユキ殿を真似たものか?」

「わぁ〜!よく分かったねぇ!そうそう、ユキ姉から教わったんだよ〜」

「女装の仕方をか?」

「私って中性的で見目が良いでしょ?この垂れた目なんてとぉってもキュートだし、女装で任務の幅も広がるのよねぇ」

 レインは女性のようなしなを作り、クネクネと媚びるような動きをする。

「まあ、オレの変装も中々だけど、アオイの女装は群を抜いてるんだよなぁ」

「彼も任務で女装を?」

「貴族のご令嬢からパン屋の看板娘までなんでもござれ。とある地方の有力大貴族の侍女としての潜入隠密任務の時は凄かったよ〜!たった一日で王城並みの防壁を誇る城を木っ端微塵にしたんだからぁ」

「木っ端微塵…!?どういう事だ?」

「アオイは薬草学だけじゃなく、武器兵器や弾薬の開発なんかも右に出るものはいなくてね〜。昔とある依頼が兵器の密輸組織の拠点の無力化と標的の捕縛だったんだけど、潜入した一日目に保管庫を探り当ててその場にあった弾薬を解体、威力の強い爆薬を作り上げて大爆破!右往左往する標的をサラッと捕縛したんだぁ」

 アオイのとんでもない大活劇話にルカは空いた口が塞がらない。

 レインの首を締め上げていた時の、アオイの無の境地の様な寒々しい表情が思い出され、身震いした。

「そんな十人衆屈指の実力者のアオイくんも、ルカちゃんの魅力には見事に当てられてたねぇ。昨日の謁見の場でも意識が飛んでたもん」

 レインは心底おかしそうにお腹を抱えて笑い出すが、今の強烈な話を聞いた後ではルカは全く笑えない。

「……アオイ殿もユキ殿も、十人衆なんだな」

「そうだよ〜。……あそこにいるアカツキもね」

 クイっと顎で示した先には、長の屋敷の裏庭の方角から歩いてくる壮年の男がいた。

 30代後半に見えるその男は、アオイやユキと同じような黒装束を纏い、赤茶けた少し長い髪を左側で結び、非常に体格が良く大柄で、眼光は鋭いながらも優しげな雰囲気を醸し出している。

 男はゆったりとした足取りでルカの前まで来ると、深々と頭を下げた。

「子供達の遊び相手になって頂いたようで、お手数をおかけ致しました。ご挨拶が遅れて申し訳ございません、アカツキと申します」

 強面ながら、丁寧な挨拶と柔らかい物腰でルカに礼をとる。

「ご丁寧な挨拶をどうも。非常に有意義な時間を過ごさせて頂きましたが、子供達の修練の邪魔をしてしまっていたら申し訳ない」

「むしろ子供達は皇女殿下にお相手願えたのを大変喜んでおりましたし、私としても貴重なお時間を割いて頂けて感謝しております。よろしければまた、子供達の相手をしてやって下さい」

 そういってアカツキは優しく微笑む。

 穏やかで、心が温まる眼差しだ。

 彼の日に焼けた顔をよく見てみれば、頬骨のあたりに三日月のような傷痕がある。

「昨日話せなかったから久しぶりだねアカツキ〜。元気してたぁ?」

 いつもの調子でレインが話しかけたが、心なしか嬉しそうに声が弾んでいるのが分かる。

「お前は相変わらずのようだな。元気そうで何よりだ」

「まあね〜。変わらず自由に飛び回ってるよぉ。アカツキ、後で手合わせしてよ!」

 レインの誘いに少し困ったような嬉しいような表情で頬を掻く。

「皇女殿下の御前だぞ」

「私の事はどうかお気になさらず」

「……では、後ほどレインをお借りしますね。レイン、殿下を丁重にお送りしてきなさい。御前、失礼致します」

 そう言って軽く会釈をして、アカツキは屋敷の門に向かっていった。

「……アカツキ!!約束だよ〜!」

 アカツキが去っていく後ろ姿を、大きく手を振り、少し寂しげな表情で見送ったレインの横顔が、その時何故か気になった。

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