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名も無き里

 王都で怪物達の襲撃を受け、深い森の中で体制を整えたルカ達は、山をいくつも越え、渓谷に面する霧立った静かな村を見下ろしていた。

 その道中も夜間には怪物の襲撃があった。

 日が落ちた後に火を焚いていたにも拘らず。

 女が話していた、王都で実験体が造られている話が真実味を増した。

 王都から近ければ、怪物達の嗅覚も鋭敏に働いているのかもしれない。

 だが以前とは違いレインに加え、ルカに従属した獣がサポートしてくれていたおかげで、重傷を負う事無く切り抜けられていた。

「着いたわ!」

「……」

 意気揚々と谷を見下ろすレインの隣りで、ルカは無言で深く息を吐く。

「あら、安全な場所でゆっくりお風呂に浸かりたく無いの?」

「……それが目的では無いだろう。私に何をさせたいんだ?」

 本来ならば、一刻も早くトロイへ向かう船が出港するはずのガリキアへ向かうつもりだった。

 だがそんなルカの心情を吐露する事も、このルカを付け狙っていた間者の女を巻く事も難しいと判断しどうしたものかと考えあぐねいていると、レインは故郷へ寄ってくれとルカへ詰め寄った。

 王都から怪物に連れ攫われた深い森は、ガリキアへ向かうならばレインの故郷の村を通る道中に当たるらしい。

 ルカにでさえ察知出来ない程の隠密を育て上げた村へ寄るなどと、通常なら有無を言わさず無視する所だが、この女を放っておくのも気掛かりだった。

 何より、あの場からユノやコーエン、カーティスを逃した手腕。

 ルカは連れ攫われたからあの後を知らなかったが、コーエン達が馬車へ逃れるまでにこの女が現場を撹乱してくれたらしい。

 いくら王国騎士団とは面識の無いコーエンでも、謎の修道女と会話をしていた姿は見られていた。

 3人が現場から逃れていくあとを追われぬよう、煙玉を使用して更なる襲撃を思わせたそうだ。

 そこまでしてルカ側の人間達を逃した理由も分からない。

 この女も、行動の理由を話さない。

 一切信用はしていないが、あの場でユノを託せたのは女に悪意が無かったから。

 悪意が無いからと言ってユノを預けるには、自身に対して甚だ怒りが沸き立つが、あの場ではそれしか出来なかった。

 大切な誰かを守る事など出来ないと、己が一番理解しているからの判断。

 自分の弱さに吐き気すら湧く。

「目的は言えないけど、貴女に悪い様にはしないわ。私、今まで嘘はついてないでしょ?それだけでも信用して」

 霧に覆われた谷の中の村を見下ろすルカの肩をポンポン叩きながら女は胡散臭い笑みを浮かべる。

「ようこそ!名も無き里へ!」

 女は霧に覆われた村を悲しげに見詰めながら明るい声色で紹介した。






 今まで見てきた村とは様相の違う、木造で平屋の多い不思議な建築だらけの村だった。

 里へ足を踏み入れて家屋を通り抜ける間、誰にもすれ違わない。

 ルカの背後には従属した例の獣も付いてきている。

 見も知らぬ人間が怪物を引き連れて跋扈すれば住人達を驚かせるのではないかという心配も、これだけ人気の無い村では意味を解さないようだ。

「ルカちゃん心配してただろうけど、うちの村の血族はだいたいが仕事で出払ってるのよ。ここに居るのは本部の人間と、次代を担う子供達と世話係くらい」

 そんな話を聞きながら歩いていけば、他の家屋とは違う大き目の屋敷に辿り着いた。

 門はあるものの、門兵は居ない。

 庭と思しき屋敷の前では子供達が数人駆け回っている。

 その内の一人がこちらに気付いて駆け寄ってきた。

「レイン兄ちゃん!お勤めご苦労様!」

 その男の子がレインに声をかけると、他の子供達も駆け寄ってくる。

「ちょっと!この格好見たら分かるでしょ!バレちゃったじゃない!」

 レインが子供達に向かって叱りつける。

「……レイン…兄ちゃん?」

 恐る恐るレインへ顔を向けるルカ。

「お着替えは見てないから許してね、ルカちゃん!」

 悪びれなく口角を上げてニヤリとするレイン。

「……傷痕が無いか、身体は確認された…!」

 怒りや腹立たしさよりも、レインが男だった事を見抜けなかった自分に憤りを感じる。

 悔しさに、両手で顔を覆ってしまうと、

「…もう!だから秘密にしたかったのに!」

 プンプンとした仕草で子供達に向き直る。

「レイン兄ちゃん久しぶりだね!」

「長に用事?」

「お姉ちゃんキレイ!レイン兄ちゃんのお嫁さん?」

「この子何!?おっきいー!!」

 興味津々とばかりにルカやルカの背後に控える獣に纏わりつく。

「はいはい、あんまり騒がないでちょうだい。この子は厩に繋いでおいてくれる?ルカちゃん、大人しくするよう言い聞かせておいて」

「……この村の人間達を傷付けるな。大人しく待っていてくれ」

 顔を覆っていた両手を外し、獣に向かって言い聞かせる。

 理解したのか、コクリと首を振って犬のようにちょこんと座った。

 そんな獣の動作を見て子供達がきゃあきゃあと奇声を上げて駆け寄る。

「さあ、行きましょう」

 意気揚々と、ルカは腕を引っ張られ屋敷の中へ連れて行かれた。


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