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初めての渇望

「殿下!お怪我は!?」

 銀目の修道女が怪物に攫われたあと、ハーデスは呆然と虚空を見つめていた。

 護衛騎士のエルマーやアドルフがいくら呼びかけても、一切反応を示さない。

 あの少女の驚愕の表情と、滑らかな頬と唇の感触が頭の中で繰り返しループしている。

 サヴォイア国国王であるユリウス・アウグスドゥルス陛下との謁見中も、城下町の視察中も、何なら王都チェスターへ到着してからずっと胸騒ぎがしていた。

 城下町の視察も終わりかけた頃にあの爆発音。

 護衛任務に着いていたこの国の騎士に一度はリヴォア宮へ送られたものの、激しい焦燥感に駆られ、宮に着く前に引き返した。

 そこには負傷した騎士達と、粉々になった屋台、異形の怪物が横たわり、そしてあの少女が居た。

 視線が交わった瞬間、雷に打たれたかのような衝撃が走った。

 心臓は高鳴り、締め付けられ、腹の底から乾きと切望が湧き起こる。

(あの娘は自分のものだ)

 この狂おしい程の渇望以外、何も浮かばなかった。

「随分とお美しく成長なさっておりましたねぇ。妹君」

 目を細め、いやらしい笑みを浮かべたレイナードが、ハーデスと同じように虚空を見上げていた。

 その発言に、タクシスからの同行者達が揃ってギョッとする。

「レイナード!あの少女が殿下の妹君なのか!?」

 エルマーが驚愕の声を上げる。

「やだなぁ、遠目から見ても殿下の母君にそっくりだったじゃないですかぁ。双子であらせられますから、もちろん殿下にも瓜二つでしたけどねぇ」

 馬鹿にしたように目を細め、嘲るような声を出す。

 普段ならば、このふざけた男の物言いにエルマーが腹を立てる所だが、今はそれどころではない。

「…失礼します、殿下。先程の少女が、陛下が仰っていた姫君で間違いございませんか?」

 アドルフはハーデスの肩に手をかけ、彼の意識を取り戻すべく問いかける。

 しばらく虚空から目が離せないハーデスだったが、一拍を置いてゆっくりとアドルフに目線を向けた。

「……間違いない。エヴァだ」

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