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阿鼻叫喚

 "鳥のようなもの"は、顔は大鷲であるが、細長い尾の先は尖り、凶暴な鉤爪を持つ四足歩行の動物の身体を持っていたからだ。

 巨大な鳥はゆっくりと噴水の辺りへ降り立つ。

 大きさは屋台一つ分くらい。

 突然の怪物の襲来に、祭りで沸き立つ往来は途端に阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 押し合いへし合い、人々が逃げ惑う。

 街中を警備していた兵士ですら悲鳴を上げて尻餅をつき、四つん這いで逃げ出そうとしている。

「グェッ!!グェエエエエッ!!」

 怪物は気色悪い咆哮を上げた。

 ルカは舌打ちを鳴らし、太腿に巻き付けたガーターから短剣を取り出す。

 今日は短時間の外出で人目もあるからと、目立つ黒剣を帯刀していない。

 ソワソンでは一度も怪物は現れていない点も油断に繋がったのだ。

 民衆が逃げ惑う中、怪物は動かない。

 だが確実に狙いはルカだ。

 街や人に被害を出さない為にも、この怪物を人気の無い場所まで誘導するべきだが、祭りの中日である今日はどこも人で溢れている。

 ジリジリとした睨み合いが続く中、ルカの真横を空を切る音が鳴った。

「グェエエエエッ!!」

 一際大きく鳥が鳴き、翼をバタつかせ再び宙に舞う。

 片目にはダガーが突き刺さっていた。

「早く始末しないと、被害が出るわよ?」

 例の女がニコニコと指と指の間にダガーを携えていた。

 この女が怪物に向けてダガーを放ったのだ。

「貴様…!!」

 ルカが女に掴みかかる前に、巨大な鳥は翼を二、三度大きく羽ばたかせ、ルカと女の立つ場所へ向かって直滑降で嘴ごと突っ込んでくる。

 二人同時に左右へ別れ飛びすさり、攻撃を避けた。鳥は地面スレスレを滑空し、また空中で旋回するが、ルカへ狙いを定めたのだろう。

 滞空時間も間もなくすぐに、鋭い嘴で突っ込んでくる。

 それをかわしつつ短剣で斬りつけるが、短い刀身は怪物へ届かない。

 攻撃が入らないと見るや、怪物は「グェッ!!」と一鳴きし、地面へ降り立ち四足歩行で素早くルカの元へ飛びかかる。


 その時、ドン!!パパパパパン!!といった激しい爆発音と、目も開けていられない容赦ない光が破裂した。

「グェエエエエ!!!」

 ドスンっと、怪物が倒れたらしき音も聞こえる。

 光に当てられた目をゆっくり開けると、横たわって呻く怪物と、その後ろには真っ青な顔で小型の照明弾を構えたユノの姿があった。

 今の爆発音と光は、ユノが怪物へ放った照明弾だったのだろう。

 ユノには人前であの能力を使用しないよう言い含めていた。

 広場には逃げそびれ腰を抜かした人や、遠巻きながらもまだまだ人々がいる。

 ルカの言付けを守って機転を効かしたのだろう。

「ルカ!!」

 倒れた怪物の横を通り抜け、ユノが駆け寄ってくる。

 その背へ、ヨロヨロと起き上がった怪物の鋭い尾が向かった。

「ユノ!!」

 彼の腕を引っ張り抱き抱え、代わりに背を向ける。

「…くはっ!!」

「ルカ!?」

 尾はルカの背中を貫いた。

 そのまま四つ足に付いた鉤爪でルカを掴もうとするのを、何とかギリギリで避け、胸の上あたりから突き出た尾を掴み、斬り落とす。

 怪物が咆哮を上げ地面をのたうち回っている間に、ユノを抱えて距離を取る。

 ある程度の距離が離れた所でユノを地面に立たせ、斬り落とされ突き刺さったままの尾を引き抜いた。

 傷口からボタボタと血が溢れ出る。

 衝撃で息が詰まり、それでも何とか空気を吐き出すと、吐血で上手く酸素が吸えない。

「なんで…ルカ…ルカ!!やだよ…ダメだ!!」

 ユノが混乱と驚愕で涙をポロポロ流している。

 何とか落ち着かせないと。

「だ、いじょうぶ。臓器は無事、だ」

「血が…血が!!」

「へい、き」

 安心させるように口の端に垂れた血を拭い、ユノへ向けて笑顔を作る。

「…綺麗……」

 場違いな、陶酔しているかのような言葉が掛かる。

 声のする方に顔を向ければあの女がすぐそばに立っており、頬を紅潮させうっとりとルカを見つめていた。

「…おい」

 ルカは女を睨みつけながら、

「この子を守れ。傷を一つでも付けたらお前を殺す」

「……ええ!任せてちょうだい!」

 命令されたのが嬉しいかのような、期待に満ち満ちた笑顔で小気味良い返事を返す。

 この気味の悪い女にユノを托すのは不本意だが、今この場でユノを守りながら怪物を相手には立ち回れない。

 女はパッとユノを抱え、怪物とルカから更に離れた場所へ一瞬で移動した。

「ルカ!!」

 抱えられたユノは何とか女の腕から抜け出そうともがく。

「大丈夫、私は死なない」

 ユノへ笑顔を投げかけ、怪物へ向き直る。

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