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感謝祭

 感謝祭二日目。

 コーエンが朝から慌ただしい。

 昨日、王宮での式典に出席後、夜会へも参加していたようだ。

 帰宅は深夜を回っていたらしい。

「今日はこの後リヴォア宮で、視察中の他国の外交官と顔合わせをする事になりました。昼過ぎには戻るとは思いますが」

 昨夜の疲れが残っているのだろう、朝食もあまり胃に入らない様子で珈琲ばかり飲んでいる。

「オッペンハイマーを指名してきたので、貿易関係の話がしたいのでしょう」

「そうなのですか。流石はこの国一番の貿易商の名で馳せているだけございますね」

 給仕がいる手前、コーエンとルカは胡散臭いくらい丁寧な喋り方に徹していた。

 そんなルカの褒め言葉にコーエンは口の端をピクピクさせながら、

「…せっかくの感謝祭です。城下町で祭りの雰囲気を堪能してきてはいかがですか?カーティスに案内させましょう。私も王宮での用事が終わった後にでも見に行くつもりです」

「まあ…王都の感謝祭は憧れでしたの。お言葉に甘えさせて頂きます」

 今この場には給仕と侍女がいる。

 話はすぐに屋敷内に回るだろう。

 間者の耳にも入るはず。

 盲目の修道女が外出するには、誰かしらが付いていなければ不審に思われるのを想定して、カーティスに案内させるという会話を聞かせる必要があった。

「ユノも王都の感謝祭は初めてだろう。ルカさんと楽しんでおいで」

「はい!」

 短期間ですっかり作法を習得しつつあるユノは、今日も朝からしっかりと朝食を摂っていた。






 城下町は想像以上に人と活気で溢れていた。

 とは言っても、ルカは布で目隠しをしている状態の為、音や気配で探るしか無いのだが、目を隠している分余計に騒々しく感じてしまう。

「ユノ。街はどう?」

「人だらけ!はぐれないようにね!」

 そう言ってルカの手を握りしめた。

「ここはまだ入り口ですよ。とりあえずは噴水広場のあたりへ行きましょうか」

 この喧騒でまだ入り口付近。

 中心街は恐ろしい事になっていそうだ。

 ソワソンでも驚いたものだが、王都チェスターの城下町の人口率はソワソンの比ではない。

 噴水広場に向かっている道中、老若男女問わず挨拶をされた。

 警備兵までもだ。

 王都では教会へ属する者への敬意が徹底されているらしい。

 ルカ自身は、母が死の間際に遺した言葉を一言一句忘れていない。

『崇拝する王家も 信仰する女神も 何が真実か知る時がくる』

 まるで呪いのような不吉な言葉だった。

 王都で過ごすにあたって修道女に扮するのは嫌悪感もあったが、銀髪銀目を自然に隠すには致し方無い。

 ルカは挨拶をされる度に何度も「女神ハルペイアの御導きがございますよう」と、繰り返さざるを得なかった。

「ユノ。あれが王都の名物です。食べますか?」

「はい!」

 カーティスが指し示しているらしき方向からは、燻られた肉とハーブの香りがしていた。

 スモークチキンのハーブ掛けか何かだろう。

「ルカさんはどうなさいますか?」

「では、私もお願いします」

「かしこまりました。ユノ、あちらのベンチが空いたようですので、ルカさんをお連れして」

「分かりました!」

 ユノにエスコートされ、ベンチへ腰をおろし、ホッと息を吐く。

 城下町の入り口からここまで、途中声をかけられたり出店に立ち止まったりで、本来なら15分程の距離を一時間はかけている。

 果てしなく続く喧騒と人波に揉まれ、ゆっくりと歩いたのも相まって多少疲れていたようだ。

「ルカ、大丈夫?」

「大丈夫。ユノは疲れてない?」

「僕も…あっ、私も大丈夫!」

「フフッ元気そうで良かった」

 女の子の扮装をしているのを忘れていたようで、すぐさま言い直したユノ。

 声の調子から、祭りを楽しんでいる様子が伝わった。

「…本当は普通の格好でルカとお祭りに行きたかった…」

 不貞腐れたように呟く。

「また来年も行こう。屋台も制覇したいね」

「本当!?約束だよ!?お祭りデート!」

 途端に声を輝かせるユノ。

 昨夜、ユノの前で涙を流してから、ユノとルカはだいぶ砕けて会話をするようになった。

「お祭りデート。約束だね」

「やったぁあ!!」

 普段は大人しいのに、今日は随分とご機嫌のようでルカも嬉しくなる。

「何だか楽しそうですね。どうしました?」

「秘密だよ!あっ、それが名物?」

 視界には映らないが、ユノのキラキラした表情が窺える。

 カーティスがユノへ渡し、次にルカへ手渡す際、小声で問い掛ける。

「どうですか?」

「分からない」

 間者はついて来ているかの確認をしてきた。

「コーエンの元へ向かえ」

 小声で伝えると、カーティスは小さく頷いた。

「申し訳ございません。社長から預かった支部への書類を届けたいので、少々お待ちいただけますでしょうか。一時間程でここに迎えに参ります。ユノ、ルカさんを頼みましたよ」

「はい!」

 事前の打ち合わせ通り。

 カーティスが側にいる時に接触が無ければ、彼には一旦この場を離れて貰う手筈だ。

 このまま何もなければ、一時間後に噴水広場で合流。

「では、後ほど」

 二人は、足早に噴水広場の人混みを抜けて行くカーティスを見送った。

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