仕掛け
「感謝祭中に城下町へ?」
タイミング良くコーエンを訪ねてやってきたカーティスが、動揺を押し隠す為か何度も眼鏡のブリッジを中指で押し上げている。
「祭りの期間中は、近隣の街から司祭や修道女も王都の教会へ補佐をしに来ているのだろう?街中に一人くらいは盲目の修道女がいても、それ程目立たないはずだ」
だからこそ、王都へ入る際の検閲も楽に通れたのもあった。
「だが…いくらなんでも不用心ではないか?人で溢れ返ってるぞ」
「それで良いんだ。入り込んだ鼠も下手に騒ぎ立てられない。人の目があるからな。感謝祭二日目あたりならばちょうどいいだろう」
教会では一日目は祭事、三日目は総出で蜂蜜入り葡萄酒を振る舞うのに忙しい為、城下町でフラフラしていてはおかしく思われてしまうだろう。
「何というか…お前は本当に大胆だな」
呆れたような声音でコーエンは吐息を漏らす。
「私共に出来る事は?」
カーティスは既に覚悟が決まっているらしい。
「コーエンとカーティスは二人で城下町を歩いて欲しい。私とは別行動だ。護衛も付けておくと良い。監視している何者かの目標がコーエンか私か、正直な所まだ分かっていない」
本邸に着いてからコーエンもカーティスも屋敷を出ずに書類作業や雑務をしている。
その間に見張られているのだから、この4人の内の誰かが探られているのだろう。
「ルカ…僕を置いて行かないよね?」
隣に座っていたユノが不安げにルカを見上げる。
本来ならば置いていくべきなのだろうが、衆人環視の中に連れて行った方がまだ安全とも言えた。
何より、あと少しで離れる事になるのだ。
せめて喫緊の不穏分子からは、自分の手で守ってやりたい。
ルカは柔らかい表情を浮かべ、ユノの頭を撫でた。
「もちろんだ。盲目の修道女への、頼もしいエスコートを期待しているよ」
「うん!」
頼られたのがよほど嬉しかったのだろう。
上機嫌でクッキーに貪り付いている。
「緊急時の連絡手段を講じておきたい。あくまでも、どうにもならない事態に陥った場合だが。何か使える物はあるか?」
「緊急時ですか…社長、あれはどうですかね。開発中の小型の照明弾」
「ああ…まだ市場に出して無いが……試作品が屋敷に届いていたな」
筒状の小型の照明弾。
地面に置き導火線に火を点けると、空へ向かって射出し、10秒ほど辺りを明るくするらしい。
ルカは見た事がないのだが、王都など栄えた街では花火というものがあるらしく、その応用で照明弾として研究開発された物だそうだ。
感謝祭三日目は、祝砲として花火が打ち上がるようなので、二日目にもしもの際に照明弾が上がったとしても試し打ちだと思われるとの事だ。
「では、その照明弾とやらを活用させて頂く。そちらが不測の事態にはすぐに駆け付けよう。私が打ち上げた場合は、二人は屋敷まで急いで戻るんだ」
「一人で何とかするつもりか!?」
「大丈夫だ。人目を集める必要に迫られでもしない限り使用するつもりは無い」
そもそも、照明弾を打ち上げる程の緊急時に陥いるとも思っていない。
いくら貴族の屋敷で警備が厳重だとはいえ、敷地内に侵入してきている間者は今のところ何も行動を起こしていないからだ。
接触しようと思えば機会はある。
となると、情報収集が目的か、かなり慎重な刺客だと言えよう。
刺客が、こちらが用意した仕掛けに乗るか乗らないかは五分五分だが、何もしないよりはよっぽど良いだろう。




