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時刻は深夜2時過ぎを回った所だろう。

コーエンの執務室を出て、充てがわれている客間の扉を音が出ないようにそっと開ける。

室内は暗い。

あの少女も寝台で熟睡しているだろう。

静かに浴室へ向かい、顔と手を洗い、濡らした布で身体を拭いて寝衣に着替える。

物音を立てないように寝台に近付くと、上半身を起こし、暗闇を見つめている少女がそこにいた。

「…起きていたのか?」

寝台に腰掛け少女に話しかけると、クルッと振り返り、ルカに抱き付いた。

「…やはり、命令は効かなかったんだな」

少女の頭を撫でながら、ルカは考える。

ウスターとのケリを付ける為に、この部屋を出る前にこの子を寝かしつけながら命じていた。

穏やかな夢を見て朝まで眠るように、と。

自身の、人へ言葉を発するだけで相手が暗示にかかったように従うのも意味が分からないが、この子もまた特殊だ。

帰る家があるならば、無事に家族の元へ帰してやりたいのだが、その後はまともに暮らせるのだろうか。

まずは本人の意思を確認しなければならない。

「君の家族はどこに住んでる?」

少女は抱きついたまま、ゆっくりと首を横に振る。

家族がいないならば施設へ預けるか、コーエンに頼んで里親を探してもらうしかない。

「…名前は?」

少女は何も反応しない。

額をルカの胸に押しつけたまま。

そういえば、この子と初めて会ったあの地下牢で、女神と勘違いされた時しか声を聞いていない。

いや、他にも聞いた。

ウィルを担いで石段を上っていった時だ。

「…ユノ…」

あの時、頭の中に響いたのはこの単語だったと、ルカはポツリと呟いた。

すると彼女はビクッと身体を震わせ、嗚咽を漏らし始める。

どうしたものかと、ルカはとにかく少女の背中を摩った。

そしてルカを見上げるようにして涙に濡れた琥珀色の瞳を向けると、

「…ユノ、がいい」

泣きじゃくりながら少女は言った。

今の言葉でこの子の本当の名前では無いのが分かった。

何か理由があるのだろうが、今は触れないでいる事にする。

「…そうか。ユノ」

優しく抱きしめると、ユノは一層肩を引き攣らせしゃくり上げて泣いた。

しばらく落ち着くまでユノを抱きしめ続けていると、そっと身体を離しルカを見つめる。

ルカは少女の泣き腫らした目元を拭うと、昔母がしてくれたように、瞼へ優しく口付ける。

少女は一瞬肩を震わせ目を見開き、薄暗い室内でも分かるくらい顔を赤く染めた。

少しの間見つめ合い沈黙が落ちるが、意を決したように、

「ルカと一緒にいたい。僕がルカを守る」

強い眼差しをルカへ向ける。

この愛らしい顔立ちをした子は、少女ではなく少年なのだとルカは今更気付いたのだった。

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