血に塗れた少女
「…報告によると、洞窟は爆破の際の落石で入り口は無くなっており、山小屋は焼け落ちていたそうです」
オッペンハイマー当主の執務室。
秘書のカーティスが一つ目の拠点の現状を説明していた。
「付近はバラバラになった遺体だらけだったそうです。一人一人は確認出来なかったようですが…あの場に居た人間は全員死んでいるでしょう」
「…そうか」
血の気の引いた顔をして、コーエンは頭を抱えた。
「子供達は無事、警備兵に保護されました。そろそろ貧民街の拠点にも兵士が向かう頃かと」
カーティスは懐中時計を取り出し、時刻を確認した。
「…それで、もうすぐここへ戻って来るんだな?」
「はい。大剣を受け取りにお帰りになられるとのことで」
執務室の壁に立て掛けられた、禍々しい光を放つ黒剣。
この凶器をもってして、あの人数を相手にしたというのか。
「俄には信じ難いが…あの娘一人で拠点を一つ、壊滅せしめたのだな」
「二つだ」
背後から鈴を鳴らす様な美しい声が響き、机に手をつき立ち上がって、慌てて振り返る。
窓枠に足を掛け、室内に侵入しようとしているルカが居た。
「ここは三階のはずだが」という、どうでも良い疑問は、ルカの姿を見てすぐに消えた。
外套を脱ぐと、胸元が開いたシャツと臀部のラインが浮き立つロングスカート。
その色気のある服装では無く、夥しい返り血に塗れた姿にコーエンとカーティスは凍りついた。
しばらくの静寂が場を包んだ。
「…お怪我は、ございませんか?」
何とか声を振り絞り、カーティスがルカへ尋ねる。
コーエンはルカを見つめたまま瞬きも出来ていなかった。
「怪我は無い。出来れば湯と布を。着替えも欲しい」
「承知しました。すぐに」
そう言って、カーティスはすぐに執務室を出ていった。
「…良い部下だな、コーエン」
今だに固まったままだったが、突然呼びかけられて身体をビクッとさせる。
「…あっああ。そうだな…」
ルカは壁に立て掛けられている黒剣に向かっていく。
剣を手に取り眺めながら、
「貧民街の拠点に、オッペンハイマーを示す様な書類は無かった。確認はしたが」
剣を持ち、コーエンに振り返る。
「それは問題無いはずだ。拠点を移す話をしていたから、既に証拠類は全て処分済みだ」
ようやく落ち着いてきたようで、つっかえずに受け答えられた。
「なら良い。流石にあの荒屋に火は放てなかったからな」
あれだけ密集して家が立ち並んでいれば、ちょっとしたボヤでもすぐに街全体へ火が回ってしまう。
無関係の者を巻き込むほど、ルカは鬼畜でも非常識でも無い。
これだけ人を殺めておいて、非常識では無いと言うのは語弊があるだろうが。
自身に対する嫌悪を押し隠し、
「子供達も今頃は保護されているだろう。次は、奴らのいる拠点だ」
大剣を照明に翳しながら続ける。
「最後の時を、お前も見届けるんだろう?」
ゆっくりと剣を下ろし、銀色の澄んだ瞳でコーエンを見つめる。
ゴクリと息を呑む音が室内に響いた。
吸い付けられた様にルカから目が離せない。
「…ああ」
血に塗れた美しい少女の無表情は、えも言われぬ妖艶さを醸し出していた。




