汚れた手
階段も壁も、木の板が打ち付けてあり、土が剥き出しという訳ではなかったが薄暗く湿気ていた。
地下自体はそれほど広くはないようだ。
階段を降り切ると、鉄格子の部屋が二つ。
奥で二人の男達が何やら相談し合っている。
鉄格子の中には4人と3人、分けられて入っていた。
不潔な牢の中で怯える子供達。
洞窟の拠点に集められていた少年少女よりはまだ、体力も気力もあるようだった。
「目を閉じて耳を塞いで」
そう子供達へ声をかける。
「誰だ!?」
奥にいた男達がルカに気付く。
こちらへ駆け寄ろうとする二人目掛けてダガーを連続で投げる。
ダガーは男達二人の服を突き破り、木の壁へ縫い付けられた。
「鍵を出せ」
一人の男が腰に付けた鍵束を差し出す。
現状が理解出来ず、ルカを睨み付けながらも呆気にとられている。
「お前、何だ!?」
「殺すぞテメ…」
言い終わり動き出す前に、一人の額にダガーが突き刺さる。
そのまま白眼を剥いて動かなくなった。
一瞬で仲間が殺されたのを見て、残りの一人がガクガク震える。
「ここの拠点はお前が最後だ」
男は声も出せずに涙と涎を垂らす。
下腹部からも漏らしていた。
「やっ…やめ…」
ダガーを額へ投げつける。
ドスっという音と共に牢内には静寂が訪れた。
ルカは息を吐き、子供達を見遣る。
ちゃんと目を瞑り、耳を塞いでいた。
見られていなかった事に安心し、男達の死体のある付近のランタンの火を消す。
せめて少しでも、目線に入ってしまわないように。
鉄格子の鍵を開け、
「もう大丈夫だよ。出ておいで」
声をかける。
子供達は目配せしながら、どうすればいいのか分からないようだった。
「君達を助けにきた。おいで」
出来るだけ優しい笑顔を浮かべ両手を広げる。
広げてみてから気付いた。
全身血塗れだ。
おずおずと、牢屋の一つから一人、小さな少年が出てくる。
「…もう、叩かれない?」
ビクビクしながらルカへ尋ねてくる。
「もう誰も、君達へ酷い事はしないよ。大丈夫」
年端もいかない少年少女達へ精一杯笑いかけた。
すると、小さな少年は、
「…うっ…うわぁあああん!!」
血に塗れたルカの胸へ飛び込んで顔を埋めた。
一瞬、ルカの汚れた手で触れてもいいのか迷った。
だが、涙が沁みて熱くなっていく胸元に縋る少年が、あまりにも健気で心が苦しくなって、気付けばしっかりと抱き止めていた。
他の子供達もつられたのか、声を上げて泣き叫んでいる。
「…大丈夫…」
自分のしている事はただの残虐な殺人行為で、今も自身に対して激しい嫌悪感がある。
誰かを助ける為に誰かを殺す事は何の免罪符にもならない。
ルカ自身は何も被害を受けていないのだから尚更だ。
綺麗事抜きに、殺めた人間達の命の上に自分もこの子達もいる。
だが、後悔だけは無意味だ。
自分もその内、先に送った奴らと同じように、地獄へ赴くのだろうから。




