長い夜の始まり
カーティスは、子供達を街の衛兵達に引き渡すように業者の男に言い含め、道中を一人引き返してきたらしい。
遠目にも洞窟付近から煙が上がっているのが見え、無事に成し遂げられた事を確信したんだそうだ。
「後ほど、うちの者が拠点を確認に行きます。お怪我など負われませんでしたか?」
馬上で手綱を操りながらルカへ問い掛ける。
「ほとんどが、山小屋内で炎と爆薬に巻き込まれて瓦礫の下敷きだ。怪我を負う程、対して相手がいなかった」
カーティスの操る馬は中々に早い。
舌を噛まないように気を付けながら会話を進める。
「ソワソンに到着次第、次の拠点へ向かう。私が向かってから一時間後に、貧民街の拠点の所在地を衛兵の詰め所へ投げ文を入れてくれ」
「貧民街と娼館には、それぞれ15人ほどが集まっているようです。一時間後で本当によろしいのでしょうか」
衛兵の詰め所から貧民街までは30分程度の距離。
ルカが貧民街に向かってから一時間半後には衛兵が到着する。
その時間内で終わらせる事が出来るのか聞きたいらしい。
「構わない。さっきの拠点よりは早く済ませる」
「…その格好も、早く済ませる為のものなのですか?」
ルカは、馬に騎乗する前に着替えていた。
少し胸元がはだけ、身体のラインが出るタイプのシャツとスカート。
年齢の割には豊満なバストを持つルカは、衣服を変えただけで、並々ならぬ妖艶さを醸し出していた。
外套を羽織っているから今は胸元は顕では無いが。
「ああ。正面から突破するには最適だ」
言いながら、まとめ上げた髪を解き、フードを被る。
「ですが、その格好だと剣は持ち込めないのでは?」
「短剣とダガーがある。この剣は、オッペンハイマーの屋敷へ運んでおいてくれ。二つ目の拠点が終わったら、一度戻る」
両脚には大量のダガーと、短剣が一つ。
これで十分だ。
「かしこまりました。そろそろ到着します」
ソワソンの街を覆う外壁が迫っていた。
無事、門兵に止められる事もなく街中へ入っていく。
しばらく進んで、人気の少ない付近で馬から降りる。
「残ってましたね」
カーティスはハンカチを出し、ルカの頬を優しく拭きあげる。
返り血が残っていたようだ。
「…すまない。剣は頼んだ」
背負っていた黒剣を手渡す。
受け取ったカーティスは少しよろめきつつも、体制を立て直ししっかりと胸に抱いた。
「お気をつけて」
検閲を抜け、街に入って少ししてから日は落ちた。
あちらこちらの酒場から、女神ハルペイアに捧げる食前の祈りと、夕食の香りが漂ってくる。
活気のある街の灯火を横目に、ルカは闇に紛れて駆けた。




