地獄の風景
「…何なんだよ、これ…」
「……知らねぇよ…」
爆薬を設置するのを終え、一息ついていたら大きな爆発音が聞こえた。
入り組んだ洞窟内部から出ると、そこは地獄だった。
山小屋は炎が舞い上がり、その側の開けた地面にはバラバラになった大量の身体の破片と血の海が広がっていた。
その地獄の中心に、珍しい銀の髪を一つに結んだ美しい女が立っている。
華奢な身体に似つかわしくない、血を滴らせた大剣を持って。
「ま、待ってくれ!金なら払う!お、お前の事もっ誰にも、言わねぇから!」
血の海と人間だった物の残骸の中で尻餅をつき、必死に命乞いをする男がいた。
この拠点の管理人だ。
普段の横暴さなど皆無な様相で、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を引き攣らせていた。
「今まで何人の子供達を扱ってきた?その内何人が死んだ?」
「お、オレが来てからは200以上…。何人死んだかは、数えてねぇ…」
管理人は怯えながらも懸命に返答する。
「お前達にとって、子供達の命は数えるまでもないのだな」
女は大剣を握り直した。
その様子に気付き、一所懸命言い訳を並べ立てようとする。
「い、いえ!そんな事はな」
「地獄で言い訳すれば良い。続きは私が行った時にでも聞かせてくれ」
右手で持つ大剣の切先が、いつの間にか男の右肩首の横にあった。
「…あ…え?」
次の瞬間、激しく血飛沫を上げ、首がゴロリと地上に転がった。
あまりにも早すぎたのか、斬った瞬間も見えなかった。
ケルビンとフーゴは、金縛りにでもあったように身じろぎ一つ出来ない。
そして女は、自分達のいる洞窟の方へ目を向ける。
身動きどころか呼吸さえままならない。
澄んだ銀の瞳に吸い込まれそうだった。
女は血に塗れた大剣を片手で持ったまま、ゆっくりと近付いてくる。
逃げ出す事も出来ずに、その場に立ち尽くしていれば、とうとう目の前までやってきた。
「何年だ?」
質問の意図が分からず、返答も出来ない。
「この仕事に関わった年数」
どうやら、自分たちがこの仕事を始めてどれ程経つのか聞きたいらしい。
「…三週間」
「一ヶ月…」
答えを受けて、女は何やら思案する。
「歳は?」
「15」
「17」
少しの間、沈黙が落ちた。
「…生きたいか?」
女は表情を一切変えず、問い掛ける。
ケルビンとフーゴは同時に息を飲んだ。
死にたい筈などあるものか。
生きる為に、こんなクソみたいな仕事にだって就いたんだ。
「…生きたい、です」
「…オレも…」
目の前に立つのは歳もそれ程変わらない女なのに、今この瞬間に自分たちの命の在り処は握られていた。
身体は震え膝は笑い、涙が流れ、それでも目は女に釘付けだった。
「ならばお前達に命じる。二度と人身売買などに加担するな。同じ事を繰り返せば、私がお前達を殺す」
女はどこまでも無表情に告げる。
「生きている限り一生を真っ当な仕事に費やし、懺悔し続けるんだ」
ケルビンとフーゴは小刻みに何度も頷く。
懺悔でも何でもするから、まだ死にたくはない。
話は終わったのか、女は大剣に付いた血を振り払い、踵を返す。
数歩行った先で止まり、返り血を浴びた白い顔をこちらへ向け、
「私の姿が見えなくなったら、洞窟を爆破しろ。…ここで見た事は誰にも話すな。組織の事もだ。早死にしたくなければな」
そう言い捨て、女は血の海を気にも留めず、森の方へ去っていった。




