洞窟の拠点へ
カーティスとルカは、森の奥にあるという洞窟へ向かうべく、幌馬車で街道を走っていた。
流石はオッペンハイマー商会と言うべきか。
揺れは少ない上に、ある程度荷物を載せているものの、数人の大人が寝転がってもまだスペースが余るくらいだ。
「格好まで見繕って頂いて、ありがとうございました」
「…あのお姿だと目立ちますから…」
今ルカは、身体にピタッとした戦闘に特化した衣服を着用している。
カーティスが気を回して用意してくれたものだ。
膝当てと胸当ても付けているが、非常に軽い。
良い素材で作られたものだろう。
「あと30分程で、付近の森へ到着するでしょう。…一つ、確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「…当家が関わっていた事を隠し通せるのでしょうか?」
男はオッペンハイマー家を心底心配しているらしい。
主人に忠誠を誓っている様子は、初めて会った時から分かっていた。
そして、ひどく頭が切れるだろう事も。
「ええ。その為にコーエンと直接関わり合いのある人間を集めて貰ってますから」
コーエンとは10以上も歳が離れている筈だが、少女は平然と呼び捨てる。
だが、何故だか彼女の発する言葉には安心感があった。
「ここの拠点には30人程集まっていると思われます。子供達の数も、一番多い」
事前に詳しく聞いた話によると、拠点毎にランク付けがあるらしい。
一番見目の良い幼い子供達が集められているのが娼館の拠点。
次点が貧民街。
そして、中々買い手の付かない、痩せ細った子供や少し歳のいった子供がこの洞窟。
あまりにも胸糞の悪い格付けに吐き気がする。
「…先代が遺したこの不快な事業に、主人は大変頭を痛めておりました。脅しをかけてくる輩もいる始末で」
カーティスは悔し気に目を顰める。
「ですから、もしも今日で全てを終わらせる事が出来るならば、誠心誠意手伝わせて頂きたい」
覚悟を決めた清々しい目をしていた。
「…いいだろう。負の連鎖は今日で終いだ」
突然口調の変わったルカに対して何も言わず、カーティスは真面目に頷く。
「洞窟の側には監視小屋があるんだったな。まずはそこへゴロツキ共を集められるか?」
「あの拠点の管理人は顔見知りなので、容易かと」
「では、ある程度小屋に人を詰めたあと、カーティスは牢番と共に子供達を馬車へ誘導しろ」
「子供達を移動させる理由はどうします?」
「拠点を移す、と言え。洞窟を破壊してから、後から来る馬車で移動する、と話せば良い」
「…その為の爆薬でしたか」
この馬車には、コーエンに頼んでおいた爆薬が積まれている。
戦場で扱う物ではなく、山や岩場などを切り崩す為の爆薬だ。
オッペンハイマー商会の系列店は多岐に渡っているらしい。
「子供達を馬車で保護した後、カーティスはそのまま待機していろ。牢番には、後始末を手伝ってこいと言って小屋へ追い返せ」
「…本当に、お一人であの連中を始末なさるおつもりで?」
「元より、そのつもりだ」
血に塗れ、這いつくばりながら怪物達と渡り合ってきた。
人間を相手にするのは造作もないだろう。
これからきっと、相当の数を斬る事になる。
だが、怪物達よりも悍ましい連中を、同じ人間だとは思っていない。
少女に襲いかかるウィルの姿が脳裏に浮かぶ。
「…許しはしない」
本来なら、組織の元締めであるオッペンハイマーは一番に叩くべき相手だった。
今も決して許しているわけでは無い。
しかし、どうせなら同じ事を繰り返す人間を増やさないようにするべきだとルカは思い至ったのだ。
「もうすぐ着きますね」
馬車の速度が緩やかになった。




