カーティス
「本気ですか、社長」
表情筋が死んでいるのでは無いかというくらい、常に無表情な男が珍しく動揺している。
「…ああ。今日で全て終わりにする」
いつもの自信に満ち溢れた様子とは違う、憔悴しきった姿の主人は短く息を吐いた。
「確かにあの商売は近々で手を引く予定でしたが…それにしても急ぎ過ぎでは?」
「異論は認めない。今日中に、屋敷の使用人達の半数を先に、王都の本邸へ向かわせろ。手筈を整えておけ」
疲れ切ってはいるものの、確固たる意思を感じた。主人の命令ならば従う以外に無い。
「…かしこまりました。ですが、商売に携わったゴロツキ共はどうなさるおつもりで?放っておけばろくな事になりませんよ」
一番の問題だった。
現当主であるコーエンが始めた事業ではない。
金に窮した先代が手を出した、劣悪な連中を使った汚らわしい仕事だった。
「…それは…」
「壊滅させます」
バタンと扉を締めて、微笑を湛える美しい少女が立っていた。
主人は激しく狼狽する。
「…おまえ!」
「まずはソワソンを出た森の奥にある拠点。次に貧民街の拠点」
一歩一歩、主人の居る事務机に近付いていく。
何が起こっているんだ?
「…ルカさ、ん?」
男は、少女の後背に聳えるように張り付く真っ黒な大剣の存在に、驚愕する。
「最後に、娼館にある拠点。一つ一つ、消し炭にしていきましょう。特に深く関わった人間達は、それぞれの拠点に集めて下さっておりますよね?」
「…ああ。昼過ぎにはほとんどが集まっているだろう」
「社長!?」
主人は苦々しく肯定した。
昨日まではこの少女に心奪われて、夢見心地で仕事も手に付かない状態だった筈なのに。
少女は望む返答が得られたのだろう、満足気に頷いた。
そして主人から目線を外し、くるりと振り向く。
「お名前をお聞かせ願えますか?」
これまでの不穏なやり取りの後に、突然自分へと視線が映り、取り乱しそうになる。
「…カーティス、と申します」
「では、カーティス。少しお手伝いをして頂きたいのです」
にこやかな微笑みを向けられたはずなのだが、少女からなのか大剣からなのか分からないが、闇が纏わり付いているように見える。
カーティスは、この美しい娘に畏怖の念を抱いた。




