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下準備
夜が明ける頃。
マリアの宿泊している宿の壁面を伝い、静かに窓を開け室内へ侵入する。
今宵は出歩く事はなかったようで、マリアは寝台で熟睡しているようだった。
「眠ったまま聞け」
ピクリと身体が振動する。
だが、目は瞑ったまま、変わらずに眠り続けているようだ。
「今夜、ウィルを連れて娼館の地下牢で待っていろ」
マリアは身じろぎ一つしない。
「他の仲間達にも呼びかけておけ。ボスからの命令だ」
下準備は出来た。
宿を抜け出す前に、ルカが以前使用していた寝台の下へ手を伸ばす。
重量感のありそうな分厚い黒剣は、夜闇をも凌駕する程の漆黒を湛えていた。
「…待たせたな」
手に馴染む大剣を背負い、徐々に朝焼けで染まっていく建物の屋根から屋根を駆けていった。




