昨夜の男
想像していたよりもメルヘンチックな外観。
白い煉瓦の壁に、濃い色味の木目の柱と桃色の屋根で、湾曲した出入り口。
童話に出てくるお菓子の家のような出立ちだ。
「ここのチーズケーキが有名でね!お前さんにも食べさせてやりたかったんだよ」
悪意の見えない笑顔でニコニコ話す。
(…ここに、本当にあの男は来るのか?)
疑念が過ぎったが、マリアに連れられ入り口を潜る。
窓際の席へ案内された。
「まずは食事だね!何でもお選びよ!」
メニューを貰うが決められず、マリアのオススメ料理にする。
「…可愛らしいお店ですね」
「だろ!?あたし一人じゃ入りづらいんだ」
照れたように頰をかくマリア。
昨夜盗み聞いていた時の彼女の様子とは別人のようだ。
あまりの変わりように、腹の底から気持ち悪さを感じたが、必死に押し隠した。
「そういやあの剣、鍛冶屋に研ぎに出したんだろ?いつ返ってくるんだい?」
「実は、刃こぼれが酷すぎて研ぐのは諦めたんです。この街は平和ですし、無理して他のを見繕うのはやめました」
「そりゃそうだよ!こんな街であんな物騒なもん、必要無いからね」
どうやらマリアは、あの長剣の存在を危惧していたらしい。
歳若い華奢な娘が、実際に振り回しているとまでは思ってはいないようだが。
「お待たせ致しました!鴨のローストと、白身魚ときのこのボイル焼きです」
料理が運ばれてきたので話は打ち切り、食前の祈りと共に昼食を頂く。
マリアの言う通り、食事は美味しかった。
香辛料が効いていて、食材の臭みを上手い具合に消している。
料理に舌鼓を打ち、皿の上が空になる頃、
「マリアさんですよね?お久しぶりです」
ルカの背後から男が声をかける。
(…この声だ)
やはり、昨夜の男はやってきた。
本当にこの店で待ち合わせとは思わなかったが。
「あら、こんな所で会えるなんてねぇ!チーズケーキでも食べに来たのかい?」
「ええ、こちらのデザートは絶品ですからね。今日はウィルさんはご一緒では無いようで」
「昨日飲み過ぎちまったらしくてねぇ。宿でぐったりしてるよ」
二人の白々しい会話がテンポ良く続いていく。
声の主を確認しようと、少し背後を振り返る。
貴族のような装いの男が二人。
一人はマリアと話していた男。
もう一人は黒髪を横分けにし、眼鏡をかけた生真面目そうな秘書の風体で、声の主の背後に控えている。
その二人は、振り返ったルカの顔を見るとビクッと肩を震わせ目を瞠った。
少し紅潮した顔で、
「…これはまた…お美しいお嬢さんとご一緒だったようで…」
驚きに声を詰まらせながらルカを凝視する。
「美人さんだろ?ついつい連れ回したくなっちまってねぇ」
マリアは自慢げに鼻を鳴らした。
「…よろしければ、デザートをご一緒なさいませんか?個室を取ってあるのですが、男二人というのも味気ないので」
ルカから目が離せない様子ながら、懸命に言葉を紡ぐ。
「ぜひ、もてなしをさせて下さい。…お手を」
男はルカをエスコートしたいらしい。
「それじゃあご相伴に預かろうかね!ルカ、好きなだけデザート頼んでいいみたいだよ!」
ウキウキとした口調で席を立つマリア。
ルカも席を立ち、男の手を取る。
手が触れ合った瞬間、また男の身体がビクッと震えた。
「…行きましょうか」
耳を真っ赤に染め上げた男にエスコートを受けながら、二階へ移動した。




