鬼畜の情景
小屋の中からは人の気配はしない。
そっと鍵の空いた扉を開け、室内に侵入する。
ガラクタが山積みになった部屋の奥の床下から、微かな灯りと、鼻をつく匂いが漏れていた。
微かにくぐもった呻き声も聞こえてくる。
近付いてみると、取手のようなものと外された錠前が転がっていた。
極力音を立てないよう、床の扉を開けて中を窺う。
石段と剥き出しの岩壁が地下深くへ続いていた。
松明が階下へ向かって一定の感覚で灯されており、その明かりが漏れていたらしい。
ゆっくりと地下へ向けて石段を降りて行く。
一歩進めば進むほど、酷い悪臭と呻き声は強まっていった。
人の気配を感じられるギリギリまで降りて行く。
突如、幼い少女の金切り声が耳を劈いた。
「ウィル。肩外れちまってんぞ」
「こいつ牢屋から中々出ねぇんだもん。後で入れ直してやるからさぁ」
少年少女の怯える声や、引き摺られて悲鳴を上げる少女の声。
ここはどうやら、売られていく前の子供達を集めた地下牢らしい。
吐き気を催す程の死臭と、汚物の匂いが充満している。
「オレ、力加減が上手く出来ねぇんだ。だから抵抗するなよ?殺しちまったら報酬が貰えなくなっちまう」
ウィルが少女に向かって諭すように言葉を掛け、
ゴスッ!
何かを殴る音。
カハッ!と、少女が呻き静かになる。
ガサゴソと衣擦れの音が微かに届いた。
ルカは、飛び込んで斬り掛かりたい衝動を何とか抑えつける。
今夜は偵察だけのつもりだった為、大剣は寝台の下に隠し置いたままだ。
丸腰では、声以外にも控えているらしいただならぬ気配の男達数人を相手にするには分が悪い。
「…おいおい。そいつも売っぱらう奴だぞ」
「別の穴使うから傷モノにゃならねぇだろ?そういった趣味のお貴族さんは省いてくれや」
「こんなガキ相手によくもまぁ…」
へへっとウィルが笑う。
カチャカチャと、ベルトを外す音が聞こえた。
瞬間、母に群がる男達の姿が鮮明に頭の中で再生される。
下卑た笑いを上げながら物言わぬ母を蹂躙する外道達。
あの時の様子が、少女を襲うウィルと重なる。
怒りを抑えるのは限界だった。




