謎の声
「わぁ!ぴったりじゃないか!」
"ルカきれいー!"
"似合ってるー!"
マリアと、いつもの声達が騒ぎ立てる。
行商人として売り歩く為の商品を買い込みに行くのかと思いきや、真っ先に向かったのはオシャレな看板を掲げた衣料品店だった。
あれこれと様々な衣服をルカに当てがい、試着室へ追い立てる。
さんざん着替えを強要された末、ようやく今着ている一着に納得したようだった。
白いブラウスの襟元には刺繍が入っており、その下には紺色の足首まであるスカート。
薄汚れた格好から一転して、深層の御令嬢のような出立ちだ。
「やっぱりあんたには清楚なお嬢さんの服が似合うね!ウィルも腰抜かすだろう!」
見立て以上に着こなしてしまうルカを見て、マリアはすこぶる機嫌が良い。
「お客様、大変お似合いです…」
店員の、どこか腑抜けた声に顔を上げると、服を選びに来たらしき周りの客達までルカに見惚れていた。
(目立ち過ぎだ…)
服装を変えるだけでこれ程までに周囲の視線を集めてしまうとは想像もつかなかった。
「流石に、目的地もまだ先だし、旅の道中でこの格好は…」
マリアに不快感を与えないよう丁重にお断りを入れたのが、
「今着てる服一式と、靴と、ちゃんとした下着も必要だね!いくつか見繕って持ってきとくれ!」
ルカの言葉は耳に入ってこなかったようで、嬉々として店員に注文をする。
いつもとは違う疲れが顔に出ないよう、ルカは無表情を決め込む。
試着大会はまだまだ終わりそうにない。
騒々しい、てんやわんやの試着大会は夕刻まで続いた。
抜け殻のようになったルカを引き連れ、昨夜と同じ酒場での夕食が終わり、宿屋に帰って来た時には日もとっぷりと沈み、煌々と半月が街を照らしていた。
(良くないな…今日一日だけでも顔を見られ過ぎてる)
酒場では特に視線が集まった。
店員の女性ですらルカに目が釘付けになっている。
銀髪銀目をした美しい少女を一目見ようと、遠い席の男達も身を乗り出して見入っていた。
人間離れした近寄りがたい容姿の為、直接声を掛けてくる猛者は居なかったものの、突き刺さる視線に身は強張り、味のしない食事だった。
寝台に潜ってからだいぶ時間が経つが、今日の失敗を思うと中々眠りにつけない。
すると、マリアが寝台からこそっと抜け出す気配がする。
時刻は0時を回っていた。
(こんな夜更けにどこへ…?)
物音を立てないよう静かに室内から出て行くマリアに勘づかれないよう、寝入っているフリをする。
部屋を出たのを確認し、こっそり後をつけるか思案していると、
『善良に見える人間ほど、残虐性を秘めているものだよ』
耳元で囁かれた。
子供達の声も正体は不明だが、あの子達がルカを慕っているのだけは分かる。
だが、この中性的な声の紡ぐ言葉はいつも不安を掻き立ててきた。
(お前は何なんだ。何が言いたい?)
心の中で、初めて問い掛ける。
『お前と同じ、愚かな血筋だった者。意識の、集合体』
答えが返ってくるとは思わず、その内容にも驚愕する。
『この世界は、欲求と利己的な悪意で始まった。全てを理解した時、屍を積み上げるか、それとも己が屍になるか。見ものだよ』
声はルカを嘲笑する。
「…せいぜい高みの見物でもしているがいい」
小さく、微かな声で吐き捨てた。
母とジュードとパヴァリア村の人々の無念を晴らす為にも、まずはトロイで自身について知る必要がある。
目的があるから、心は奮い立つ。
マリアが帰ってきたのは、空が朝焼けに染まり始める頃だった。




