二人の男女
「ねぇ!ちょっとあんた!」
頬をピシピシと叩かれる。
太陽は中天から草木を照らし、小鳥の囀る声と少し冷たい風が緩く身体をなぜていく。
久しぶりの晴天。
水分を吸った衣類は貼り付き、うつ伏せていた身体は地面に吸い付いているかのようで、身動き一つ出来ない。
「うっ…」
一晩中、犬を切り捨て夜明けを迎えたルカは、重い身体を引き摺って死体の山から少し離れてから意識を失った。
嗅覚が過敏な彼女は、怪物のそばでは気絶も出来ない。
"ルカ大丈夫ー?"
"怪我は治ってるよー!"
そう。
母から目を治して貰ってからというもの、少しくらいの傷はすぐに塞がり、跡形も無くなるようになっていた。
昔は普通に怪我をしていたし、こんなにも早く回復などしていなかったはずだ。
自分は人間では無いのではないかと、心が騒めく。
「ねぇっ!大丈夫かい?ちょっとウィル!早くこっちに来とくれよ!」
女性の心配する声と、男性らしき足音が近付いてくる。
そういえば、声をかけられていたんだった。
女性はうつ伏せていたルカの身体を助け起こし、木に寄り掛からせ、手持ちの布でルカの顔の泥を拭っていく。
「行き倒れてるなんて…。あんた女の子だね?何やってたんだいこんな山奥で」
フードが外れていたらしく、簡単に性別を見抜かれてしまった。
声の主は歳の頃は40歳くらいだろうか。
茶色に白髪の混じった髪をお団子にまとめ上げた、恰幅のいい人の良さそうな笑顔の女性だった。
「どうしたんだその子?怪我してんのか?」
足音と共に野太い男の声が聞こえる。
女の背後に立ったその男もまたガタイが良く、焦げ茶色の短髪で、仁王立ちでルカの様子を窺っていた。
「…野犬、に襲われて、逃げて…」
怪物と一晩中戦っていたなどと話せるはずもなかったが、上手い言い訳も思いつかない。
「野犬!?あんた怪我は無いかい!?」
所々衣服は破けているが、傷は消えている。
流した血の跡も昨夜の雨が洗い流してくれていた。
「泥まみれだが、怪我は無いようだね。ウィル!この子をおぶってやっとくれ!荷馬車は先に向かわせちまったからね」
男に振り向き、ルカを背負うよう頼んだ。
「よぉ〜し嬢ちゃん、おぶさりな!」
背を向けかがみ込む。
その時、どこからか血の匂いが漂った。
「…いや、迷惑はかけられない」
力を振り絞って木の幹に手をかけ立ち上がる。
怪我は治ってはいるものの体力が回復しきっていないようで、酷い立ち眩みに倒れ込みそうになった。
そんなルカを支えて、
「ほら!無理するんじゃ無いよ!手を貸しな!」
女性はルカの両腕を男性の肩へ回し、無理矢理背負わせる。
「すぐ側に街道があるから、そこから少し行った所に街があるんだよ。あんたいい所で行き倒れてたね!」
気付かないうちに、街道の近くまで来ていたらしい。
有無を言わせない女の迫力に、ルカは瞳を瞬かせた。




