第七幕より、悪女は踊る
大胆に開いた胸元とパニエを重ねた長い裾、リボンでぎゅっと絞ることでウエストを殊更に強調する赤いドレス。
谷間に視線を導く大きなガーネットのネックレス。
香油で艶を出した黒髪に、赤い口紅を塗った唇。
男を惹きつける特別な目薬をさし、甘さたっぷりの香水を体に振りかけて。
「わたしはレディ・コニー、皆を虜にするヒロインよ」
くるりととその場で一回転。家には誰も居らず、応える声も勿論ない。しかし、彼女は姿見に映る自身の出来栄えに満足の笑みを浮かべる。
その他大勢だった自分が美しいドレスを纏い、懇意になった貴族青年が催すパーティに出席する。色々と廻り道をしたけれど、第1の目標はクリアした。
あいにく大きな夜会はしばらく開かれないけれど、王都住まいの貴族たちが親睦を深める会なら冬の間に幾つもあると聞く。次はもっと大きなパーティへの誘いが欲しい。そしていずれ、高位貴族の子息に会い、見初められる未来が欲しい。
「レディ・コニー、今日も麗しい」
「レディ・コニー、私とダンスを」
「レディ・コニー、飲み物をお持ちしましょう」
レディ・コニーが姿を現せば、貴族の子息たちが先を競ってやってくる。ぴったり密着して左右に揺れるだけのダンスを数人と踊り、カラフルなカクテルで渇きを癒す。潤んだ瞳で相手をじっと見つめれば腰にそっと腕が回され、扉の外へと誘う。
「いけないわ、わたし…」
「レディ・コニー、君の事情はすべて知っているよ。私にその手伝いをさせておくれ?」
「そう?ならいいわ」
「君に失望はさせないよ」
寄り添う2人は、小部屋の奥に消えていった。