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第6話 無職の女神ちゃんが落ちてきました

 

 王都の庶民街に立ち並ぶ集合住宅。

 その薄汚れた廊下で、神の使いである女神ちゃんが土下座している。


「どうしたのユーノ?」


 尋常ならざる事態に、一瞬扉を閉めようかと思ったけど……彼女は”元”僕付きの女神。

 邪険にするのもかわいそうだろう。


「!?!? すでに過去の女扱い!?」


 僕の心を読んだのか、ズガーンとショックを受けるユーノ。


「……冗談だよ、さあ中に入って」


「今の間は!?」


 薄汚れた女の子をいつまでも自分ちのドア前で土下座させておくわけにはいかない……主に世間体的に。


 僕は苦笑すると、彼女を部屋に招き入れる。


 ひとまず顔を拭きなよ、と濡れタオルを彼女に手渡してやる。


「むぎゅうっ……ノインありがとぉ」


「って、ふおおおおっ!? なにこのごちそう!」


 身だしなみを整えた彼女は、テーブルの上に並んだ料理に気づいたようだ。


「……せっかく人生大逆転できそうだし、一応の功労者であるユーノを呼んでお祝いしようと思ってさ」


「ノイン……あれだけのミスをしたのに、わたしの事を……」


 ユーノは感動で瞳を潤ませている。

 ……右手はさっそくフライドチキンに伸びているが。


「ぷっ……何度コールしても出ないから、少し心配したよ」

「食べながらでいいから聞かせてよ。 いったい何があったの?」


「もぐもぐ……ぶふっ! ノイン、よくぞ聞いてくれました!」


 全速で料理を頬張るユーノが、むせながらずびし! と僕に人差し指を突き付ける。


「ほかでもないんだけど今朝! 女神ちゃんの年度査定があったの!

 ノインに授けるスキルを誤字っちゃったこと、ミスってユニークスキルを2つ付けちゃったこと……どちらもそこそこやべーミスだったのでユーノちゃん考えました!」


 やっぱりミスだったのか……今さらスキルを返せって言わないよな?

 思わず身構える僕。


 ユーノはそんな僕の様子に気づいていないのか、フライドチキンの骨を右手に持って熱弁を続ける。


「”シンカー”を”コモンスキル”扱いに変更……スキルライブラリーを書き換えて証拠隠滅も完璧」

「ノインへのスキル付与ログも改ざんしてこれでばっちり偽装完了! むしろ仕事をこなしたユーノちゃんの査定爆上がりみたいな?」


 ……彼女が話している内容は半分も分からないけど、これって”公文書偽造”なのでは?

 もちろん王国でも重罪である……じりっ、僕は椅子を引き、後ずさる。


「……と思ったんだけど、女神本部側にバックアップがあったらしくて、一瞬でバレちゃいました♪」


「土下座して監察官の靴を舐めてなんとか除名処分は逃れたんだけど、”人間界奉仕作業200年の刑”を食らっちゃった、てへ」


「女神スマホの魔力も切られちゃってえ……連絡付かなかったの」

「お気に入りの耽美小説読みたいから……魔力貸して (はーと)」


「……………………」


 ずりずりずり……


 僕は無言で、彼女が座っている椅子を押す。

 そのまま玄関のドアを開け、冷然と言い放つ。


「この時間なら繁華街に行けばゲスな汚っさんよりどりみどりだから……なるべく金持ちそうな汚っさんを選んで飼ってもらうといいよ」

「ああ心配しないで……胸の無駄な脂肪を駆使すれば一撃だから」


「ちょちょちょちょちょっ!? すみませんでしたっ! この駄女神ユーノ、たいへん調子に乗っておりましたっ!」

「何でも致しますので、ノイン様の家に置いてくださいっ!」


 彼女の美貌なら、金持ち貴族 (汚いおっさん)を垂らし込むこともたやすいだろう……ほんの少し、半分くらい本気で強めに言う。


 ユーノはさすがにヤバいと思ったのか、速やかに土下座体制に移行する。


「……ぷぷっ、まったくユーノの土下座は安いんだから」


 あまりにいつも通りな彼女の様子に、多少は反省してくれたと判断した僕は氷の表情を崩す。


 ユーノとは長い付き合いである。

 自業自得とはいえ、彼女が困っているなら助けてあげようと思う。


 ……前科一犯の女神ちゃん付きとか、オンリーワン過ぎて泣けてくるけど。


「うおおおおおおおっ!? さすがノイン! 神降臨!!」

「お礼に何すればいいかな? パイ○リ?」


「いや、すんな!」


 ぺこん!


「へうっ!?」


 こうして僕の家に、執行猶予中 (ユーノ談)の女神ちゃんが居候することになった。


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