完結ブーストとアクセス解析システムKASASAGI
Illustrated by 空野奏多さま
次にやってきたのは、閉店セール(完結済み連載小説)掲示板です。
『気が早いかもしれませんが、コース料理(連載小説)の店を出すならいずれこの掲示板にお世話になりますから、見ておいて損はないでしょう』
「閉店セールって……なんかちょっと悲しいんですけど?」
そりゃあね。いつかは終わるとはいえ、終わるのは淋しいですよね。
『安心してください。閉店といっても、博物館になるようなもので、熱々の出来立ては提供できませんが、いつでも来店して当時の料理(小説)を楽しんでもらうことは出来るのですから』
私は酢ライムさまの頭らしき場所を慰め撫でる振りをしながら、前足でぎゅむ~っ!! と押します。染み出た果汁を舐めながら説明を続けます。抗議は無視します。
『名前はちょっとあれですけど、閉店(完結)するとお客様が一気に押し寄せるので、まさに閉店セールのようになるのですよ。お店によっては、そこで一気に日間ランキングを駆け上がり、その結果、注目されてさらにランキングが上がり続けるという正の連鎖、いわゆる閉店祭り(完結ブースト)が起きることすらあります。たまたまそのときの時流や需要にあった作品の場合、一気に頂点まで駆け上がることすら起こりうる。まさに一度しか使えない奇跡なのです』
「おおおっ!! それは希望が持てますね!! しかもこの掲示板、他のよりも大きくないですか?」
『はい、この掲示板には、その日に閉店(完結)したお店20件が貼りだされますから、他の倍ですね。しかも新規出店に比べて閉店する数は少ないですから、運が良ければ一日中、だいたい半日程度は貼りだされ続けることになるのです。だからお客様が多く訪れるのですよ』
「しかもランキングに次いで、すごい目立つ場所だし、そんなに長時間宣伝してもらえるなら、たしかに効果ありそう!」
『酢ライムさま、ちなみに各お店の来客数(PV)は、そこにいる鳥型ゴーレムを使えば見ることが出来ますよ?』
この世界の何処にでもいるカラスを一回り小さくしたような鳥型ゴーレムは、カラスのように黒く、腹は白い。羽先や尾は光沢のある青と青緑の美しいグラデーションになっている。
Illustrated by みこと。さま
「え? この鳥にそんな能力が?」
『はい、このゴーレムは、KASASAGIと呼ばれていて、この世界の女神ヒナさまによって生み出されたアクセス解析システムです。ちなみにモデルになったカササギは、鳥類で最も大きな脳を持っている鳥なんですよ。良かったら5千文字ぐらい語りますが?』
「あ、いいえ、今度またお願いします! それよりどうやって使うんですか?」
チッ、まったくつまらない男ですね。好奇心は作家として大切なのですよ?
『各店舗の詳細(小説情報)を見て、来客数(アクセス解析)という項目を読む(クリックする)だけですよ。あのゴーレムたちが、ずっと来客数を監視してカウントしてくれているのです。これが本当のバードウォッチングなんちゃって!!』
「…………あ、見れましたね!!」
酢ライムさま? 冗談が通じない人は嫌いです。
Illustrated by 空野奏多さま
『どうですか? どのお店も来客数が一気に伸びているのがわかりますよね?』
「本当だ!! 貼りだされているお店、全部来客数がドカーンと伸びてますよ!! 特に来客数ゼロだったお店なんか、数百倍になってるじゃないですか!!」
ふふふ、大興奮ですね、酢ライムさま。
「あれ? でもねこ先輩、よくある閉店する詐欺みたいに、何度も閉店を繰り返せば常にお客様を呼べるんじゃあないですか?」
まあそう考える人もいますよね。
ですが――――私は酢ライムさまのぷるぷるの一部を鋭利な爪で切り取り口へ放り込みます。超高速なので気付かれる心配はないでしょう。ふふふ。
っ!? ライムグリーンの爽やかな酸味を期待していたのに、まさかの抹茶味……詐欺はいけませんね。しかもグミかゼリー食感を想像していたのに、このねっとり感……羊羹かよ。
Illustrated by みこと。さま
裏切られた気持ちでいっぱいの私は、酢ライムさまをジト目でにらみつけます。
『残念ですが、そういったズルが出来ないように、掲示板に掲載されるのは、最初の一回だけです。閉店(完結)したあとに、営業再開(連載再開)することも出来ますが、再び閉店しても掲示板には載れませんので、閉店祭り(完結ブースト)は起こりませんよ』
「そりゃあそうですよね。でもそうなると終わらせるのは慎重にタイミングを考えた方がいいですよね? 一度しか使えない切り札のようなものですし……」
たしかに切り札ではありますけれど、使えるうちに使わないと後悔することになりますよ?
Illustrated by みこと。さま
Illustrated by 糸さま