ランキング掲示板にて
Illustrated by みこと。さま
『酢ライムさま、せっかくなので、他の掲示板も見ておきましょうか』
「そうですね! どこから見るんですか?」
『はい、一番見やすい場所にあるランキング掲示板に行きましょう』
Illustrated by 空野奏多さま
ランキング掲示板の前へやってきました。
『これがランキング掲示板ですね。見ての通り、この世界の玄関口にもあたる場所なので、人通りも一番多くなります。酢ライムさまも何度も見たのでは?』
「あ、はい、あんまり意識して見たことはなかったんですけど、たしかに最初に目に入りますよね」
『ランキング掲示板に貼りだされているのは全ジャンル全店舗の中での月間売り上げ(総合ポイント)上位10店舗です。更新掲示板と違って一日中貼りだされてていますから、宣伝効果は抜群です!』
「すげえ……それじゃあ有名店がさらに人気になってしまいますね……うわあ…全部ハイファンとイセコイ小路のお店じゃないですか!! でも、ランキング一位と二位はハイファン小路のお店ですね。しかも六店舗がハイファンだ。イセコイの方が賑わっていたように思えたんですけど……」
『イセコイが軽食やテイクアウト(短編)が多い一方で、ハイファンはコース料理や腹にたまる重い料理(長編)が多いので、日間ではイセコイが強いですけれど、月間となるとハイファンがやや強い傾向があります』
「なるほど~。でも、何で貼りだされているのは月間ランキングなんですか?」
『うーん、日間ランキングは一日三回更新されていますし、たまたまということもありますけれど、月間で結果を残すには、ある程度継続的に評価される必要がありますので、より安定したランキングになるのと、色々不遇な長編作品に日が当たりやすくする狙いがあるのではないかと私は考えています』
「なるほど……まぐれでは入るのは難しいということですね。ある程度の力量が必要なわけだ……」
『何度も言いますけれど、ランキングに入れるかどうかは、力量、つまり料理(小説)の味(質)とはあまり関係ありません。もちろん最低限食べられる(読みやすさ)ことは当然ですが、注目されやすい宣伝の力で日間ランキングに入り、さらにそこからお客様を獲得し続けてゆくには、運以外にも、ニーズや流行を捉えるセンスやお客様を離さないための細かい工夫など、ランキングに影響する要素はたくさんあるのです』
「たしかにリアルでも、流行りのお店=美味しいじゃないですしね。美味しいお店が潰れてしまうのも珍しくないですし……三ツ星レストランが、ラーメン屋に負けてもおかしくはないのですね」
『ふふっ、そもそも、どんなに人気と実力を兼ね備えた超一流レストランであっても、全国展開のチェーン店には、売り上げでは絶対に勝てませんしね』
『だから、酢ライムさまが、どうしてもランキングにこだわる! 書籍化が目標!! というのでしたら、執筆だけではなく、ランキングのお店に食べに行って研究したり、読者のニーズを分析したりすることは避けられません。ランキングという競争原理に身を置こうとする以上、戦略は必要なのです』
「うーん、それはわかるんですけど、俺はやっぱり作品で勝負したいです。自分で書いてて思ったんですよ、あれ? 才能あるよねって。今まで読んできた作品と比べても負けているとは思えないんです」
まあ、書こうと思ってすぐに8割まで書き終えている酢ライムさまですから、その気持ちもわかります。書けるだけでそれは才能ですからね。
『はい、それでいいと思いますよ。誰がどんな才能を持っていて、どんな評価をされるかなんて、誰にもわかりませんし、実際に初投稿で大ヒット、そのまま書籍化・コミカライズなんてケースもあるのですから』
「ですよね!!」
『で・す・が。良いですか酢ライムさま? 実際には99.9%の方は打ち砕かれます。宝くじに当たるようなものだと思っておいてください。良いですね!』
「そ、そんな……そこまで言わなくても」
あらあら、真っ青になって……ブルーハワイが食べたくなりますね、じゅるり……。
『酢ライムさまのメンタルを守るためです。作品が注目されればそれはそれで良し。そうでないのが当たり前、料理(小説)の質はランキングに関係ない。そのことを知っておくだけでだいぶダメージが減らせます。特に酢ライムさまのようになまじ自信や才能がある方ほど、ショックを受けて心が折れてしまいやすいですから』
「そ、そうなんだ……でも、ありがとうございます、ねこ先輩!!」
頑張ってくださいね。ランキングを意識すると、せっかく美味しい自分の料理(小説)を魔改造し始めたり、お客様やこの世界が悪いと不満や増悪を募らせてしまいがちになるのです。
私は、酢ライムさまだけでなく、すべての転生者たちが、この世界を楽しんで欲しいと心から願っているのですよ。
Illustrated by 糸さま