評価とブックマークについて
Illustrated by 空野奏多さま
『ところで酢ライムさま、他に行くところもありますし、そろそろお店を出ましょう』
「あっ!? そう言えば、俺お金持ってませんけど……」
ライムグリーンの身体を真っ青にして震える酢ライムさま。ブニュッと踏みつけたい衝動を堪えます。くっ、鎮まれ、私の前足!
『この世界では、飲食(小説)を楽しむのに時間を対価として支払っていますから、お金は要らないのですよ。食べ放題飲み放題なのです!!』
「おおおっ!! 小説家になろう最高ですね!!」
『ですが、酢ライムさま、もしこのお店が気に入ったのなら、評価ポイントとブックマークしてあげてください』
「ええ~、面倒くさいなあ。別にわざわざそんなことする必要ないんでしょう?」
ええ、確かに必要はないんですけどね。
『酢ライムさま、どちらも、ランキングを目指すのであれば、必要になります。なにせ、王都に店を出すための場所代は、評価とブックマークによって得ることが出来るポイントでしか支払えないのです。だから、いくら私たちが飲み食いしても、お店は忙しいだけでランキングは目指せないのです。もちろん心を込めて作った料理(小説)をたくさんのお客様に楽しんでもらえたという満足感はあるとは思いますけどね』
「そうか……これからは、俺も提供する立場になるんですよね……たしかに経験しておいた方が良いかも」
うんうん、素直なところが酢ライムさまの長所ですね。
『評価とブックマークによるポイントは店を維持するための売り上げに、またブックマークは次回また来店するときの目印であり、このお店が目立つように光り輝く印になるのです。基本的にこの世界では、同じ店が同じ場所にあることはないので、探すのは大変ですからね。料理を頂いた全ての店舗には評価として最大で10ポイント(☆5個)を渡す事が出来ます。ブックマークは四千件まで付けられます。ちなみにブックマークは、一つ2ポイントに変換されますよ』
「おおっ!! ということは、俺はこの店に最大12ポイント与えることが出来るんですね? 先輩と合わせれば24ポイント!! これってランキングにどの程度影響するんですかね?」
『例えば、激戦区のイセコイ(異世界恋愛)小路に出店するには、今日だと184ポイント、ハイファン(ハイファンタジー)小路なら80ポイント必要ですけど、比較的人通りの少ないエッセイ小路でしたら29位換算になり、王都へ出店できますからとても大きな力と意味を持つのです』
「ええっ!? そんなに簡単にランキング入り出来るなら楽勝じゃないですか!! たった数人に評価とブックマークしてもらえば良いんですよね?」
『そうですね。まあ普通はそう思いますよね……でも、現実は厳しいのですよ?』
「え……そうなんですか?」
『酢ライムさまはこれまで沢山読んできたかと思いますが、評価やブックマークをしたことはありますか?』
「……無いです」
『私もここで店を構えるまでは、評価やブックマークの存在すら認識していませんでした。そもそもユーザー登録していませんでしたから』
「ユーザー登録しないと評価やブックマークは出来ないんですか?」
『はい、ですが、ほとんどのユーザーはそのことを気にも留めていません。酢ライムさまや私のように。何故だかわかりますか?』
「……必要ないから……ですか?」
『はい、お店に来るお客様は、飲食をしに来ているのです。評価やブックマークをしなくたって、十分目的は達成できるのですから満腹になれば帰るだけなのですよ。現に、酢ライムさまもそのまま帰るつもりでしたよね?』
「……たしかにそうですね」
『ちなみに、私の長編ファンタジー作品、のべ約25万人に読まれてますけど、評価してくれたのは、430人ですからね? 一日千人読んでくれて評価ゼロなんてザラです』
「そ、そんなに……」
『まあ、長編作品は評価が入りにくいというのもありますけど、それだけ評価やブックマークは貴重だということは覚えておいてください。レジ横にある募金箱みたいなもので、募金する人はする。しない人はしないぐらいに考えれば良いと思いますよ』
「なるほど……それで出口にデカデカと評価とブックマークお願いしますって書いてあるんですね! よく見たらネコ耳メイドさんのエプロンにもさり気なく書いてあるし……」
『ちなみに酢ライムさま、お客様に直接的に評価やブックマークを要求するのは禁じられているので注意してくださいね』
「は、はい、気を付けます!」
『中には、太ももに評価とブックマークを印象付けるシールを貼って目を引こうとしているお店もあります』
「……ねこ先輩!! そのお店何処にあるんですか!?」
……異常に喰いつきますね、エロイムさま。
『……屈強な強面オジサマの店ですけど?』
「……ごめんなさい、なんでもないです」
『酢ライムさま、こうやって、評価やブックマークをお願いする行為は、一部のユーザーや読者からクレクレと揶揄されることもあるのですが、誰も何も言わなかったら、読者は評価やブックマークを意識することはほぼ無いでしょうね』
「つまり、節度を持ってほどほどにやる分には効果的ということですか?」
『はい、あまり露骨だと鬱陶しくて逆効果ですけれど。例えば料理の器や皿、グラス、床や壁にまで書かれていたら、料理に集中出来ませんよね?』
「たしかにそれは嫌ですね……気を付けます!」
『さて、それでは実際に評価とブックマークやってみましょうか!』
「どうすれば良いんですか?」
『お店を出るときに、評価ボタンとブックマークボタンが現れますから、押すだけです。評価は☆の数を選んでください。最大☆5個(☆一つで2ポイント)10ポイントになります。評価の付け直しは何回でも可能ですからね? 失敗を恐れる必要はありません。慣れれば数秒で終わりますよ』
店員さんに見送られながら外へ出ると、ボタンが現れます。
「これが……でも意識しなければたしかに素通りしそうですね……はいっ、押しました!」
『お疲れさまです。ほら、中を覗いてみてください』
店内では、無愛想だったネコ耳店員さんもゴロゴロ転がって喜んでいます。
「……こんなに喜んでもらえるんですね! こっちまで嬉しくなって来ました!」
『ふふっ、一言美味しかったよと感想を伝えるのも同じぐらい喜んでもらえますよ!』
「たしかに俺も感想聞きたいかも!! 今度やってみます!」
『はい、自分が嬉しいと思うことはどんどんやりましょう!』
Illustrated by みこと。さま