なぜランキング作品が読まれやすいのか考えてみよう
「ねこ先輩、ランキングのことはなんとなくわかりました。次はどうするんですか?」
『それじゃあ実際に小路に入ってみます。この総合通りから放射状に広がっている19の小路。これらすべてをまとめて中央通りと言うのですよ』
「おお!! この小路が、それぞれの専門ジャンルになっているんですね。それでねこ先輩、どの小路へ入るんですか?」
『そうですね。せっかくなので、今一番活気と勢いがある、イセコイ小路に行ってみましょうか。魔窟と呼ばれることもありますが、別に怖くはないので安心してください』
「ええっ!? いや、何か怖いです! 俺、彼女とか居ませんし」
聞いてもいない誰得情報ありがとうございます。気にせず向かいます。決定事項です。
イセコイ(異世界恋愛)小路へやってきました。いつ来てもまるで原宿のようです。特に女性の熱気が独特の空気感を創り出しているのでしょう。
「こ、これが、一番の激戦区……怖い……怖すぎる。でも、さっきまでとは比べ物にならない人出ですね。もしあそこに店を構えることが出来れば……」
『そうですね。間違いなく来店されるお客様の数は増えると思いますよ。売り上げ(ポイント)も凄まじいことになるでしょう』
「…………」
『酢ライムさま、どうしました?』
「あ、いや……何でみんな人気店でばかり食事するのかなって。他にもたくさんいい店あると思うんだけどなあ……」
『ちなみに酢ライムさまは、普段お昼はどうされていますか?』
「え? 会社の近くの牛丼屋で食べることが多いですね」
『それは何故ですか?』
「時間が無いし、安く済ませられるからですけど? それに味も悪くないし」
『今、酢ライムさまがおっしゃったことがその答えです。よく見てください。お客さまの多くは、普段働きながら限られた休憩時間を使って食べに来ているのです。ゆっくりお店を探している時間も余裕もありません。だから手っ取り早く、行きやすく(目につきやすい)、味が保証されている(評価ポイント)お店で食べるのです』
「う……たしかに普段の食事で冒険はなかなか出来ないですよね。遠出したら昼休み終わっちゃいますし」
『その通りです。読んでもらうのが難しい理由の一つでもあるのですが、この世界には店が多過ぎるのですよ。例えば東京には15万の店がありますけど、この世界には90万を超える店があるのです。東京の人口1400万に対して、この世界のユーザー数は213万人、多くの店に閑古鳥が鳴くのも無理はないのです。多すぎる情報に対する利用者の行動は、リアルでもこの世界でも同じなのですよ』
「なるほど、ランキングのお店にお客が集中するのはある意味必然なんですね。そうか! それでヒントを見つけに人気店へ行くのですね!!」
『それだけではありませんが、まあそういった部分もあります。じゃあ行きますよ!!』
イセコイ小路を歩きながら店内を確認していきます。
「あの……あれは一体? なんだかどのお店にも並んでいるような……」
『ああ、あれは少し前から王都で流行っているザマアリトッツォですね。最初にガツンとけしからんクリームが襲いかかってくるので、私はあまり得意ではないのですが、身体に良くないものは美味しいので絶大な人気があります。ちなみに今日の売り上げトップ3(日間ランキング)の店は、いずれもメニュー(キーワード)にザマアリトッツォ(ざまぁ)が入っていますね』
「ええ……あんなにお店があるのに潰れないなんて……そうか、じゃあ俺もザマアリトッツォをメニューに加えれば人気店に?」
『そうですね。集客という点だけであれば、ザマアリトッツォをメニューに入れておいて損はないです。ただし、上手く調理できるならですけれど。ザマアリトッツォを食べに来たのに、似た見た目の別物だったら、せっかく来てくれたお客様が怒って二度と来てくれなくなってしまいますよ』
「……たしかにそれは俺も怒りますね」
『ふふっ、それにね。ザマアリトッツォ一つとっても奥が深いんですよ。人気店は見た目、味、包装、食べやすさ、ネーミング、トッピングなど、日々研究を重ねて改良しているのです。味と違って、そう甘くはないということですね』
「なるほど、ランキングに残るには、常に研究と向上心が必要ということですね!」
『……もう少しツッコんでくれても良いんですよ?』
Illustrated by 空野奏多さま
「ねこ先輩、ザマアリトッツォはさすがに無理があるのでは?」
「……引っ掻かれたいのですか? ジャキンッ(爪を出します)」