完結作品は信頼のブランド
Illustrated by 空野奏多さま
完結についてのお話の続きです。
「――――でもそうなると終わらせるのは慎重にタイミングを考えた方がいいですよね? 一度しか使えない切り札のようなものですし……」
『いいえ、コース料理を食後のデザートまで出し終えたら、素直に終わらせたほうが良いのではないかと私は思っています。欲を出してそこからまた前菜を出してしまったら、せっかくの食後感が薄れてしまいますし、またデザートを提供するまで閉店(完結)出来なくなりますよ?』
「なるほど、たしかにただ終わらせたくないという理由だけでだらだらと続けるのは、ゴールのないマラソンのようなものですね……」
まあ、終わらないことに意味がある国民的アニメのような作品もありますけどね。
『それに、この世界ではその店がどんな料理を出すのか、最後まで見極めてから食べに行く客層がかなりいます。例えば、前菜などを食べて、いよいよ次はメインの料理の番だ! と思っていたら、待てど暮らせど次の料理が運ばれて来ない。そんなお店嫌でしょう? いくら無料だといってもね』
「たしかにそれは嫌かも……でもそんなことってそうは無いですよね?」
まあすでに大方書き終えている酢ライムさまはそう思うかもしれませんが。
『この世界に存在するコース料理(連載小説)の店は現在449,341店舗(作品)つまりこの世界に存在するお店の約半分。その中で最後まで料理を出し終えた店(完結済み)は112,744店舗、つまり25%にしか過ぎません。フルコース(長編10万字、本1冊相当)を提供する店に限れば、67,505店舗中、30,865店舗で45%まで上がりますけれど、それでも半数以上の店が料理を最後まで出せていない状況なのですよ』
「で、でも、それって、単に今料理を提供中(連載中)だっていうだけなのでは?」
『そうですね、たしかに次に出される料理を待ちながら、熱々の出来立てを食べるのは最高ですよね! ですが、酢ライムさま、残念ながら次の料理が出てこない(長期連載停止中3カ月以上)店は全体の9割以上(連載中336,648作品中、長期連載中止している作品を除外すると、25,488作品しか残らない)なんです』
「うえっ!? それじゃあほとんどのコース料理のお店は、中途半端に料理を出した状態でお客様を待たせているってことですか?」
『まあわかりやすく言えばそういう状態になっているということです。だから最後までちゃんと料理を出してくれるお店は貴重な訳で、そういうお店にしか行かないという人々が多いのも納得できる部分もあるのです。私もそれでうんざりしたことが何度となくありましたしね。フルコース(10万字)ブーストという言葉が存在しているのも、フルコースを提供している店は比較的信用出来る(完結率45%)からだと思います』
「フルコース(10万字)ブーストってなんですか?」
『フルコースを提供できるようになる(10万字を超える小説)と急に来客数が増える現象ですね。掲示板ではなく、教会(検索)経由で調べているのでしょう。教会についてはまた別の機会に』
「そうか……まずはしっかり最後まで料理を提供する(完結させる)ことがお客様(読者)の信頼や安心感につながるということですね。でも、それならどうしてそんなに開店休業状態のお店が多いんですか?」
『やはりプロでなくても手軽に、しかも費用無料で出店できるからではないでしょうか。とりあえず始めてみたけれどお客様が来ないから辞めたとか、出す料理も考えないで店を出してしまった場合もあるでしょう。同時に多店舗経営(同時連載)を抱えて手が回らなくなった可能性もあります。始めるのも無料ですし、辞めても損害はゼロですからね。もちろん、家庭の事情や、体調不良も含めて、開店休業状態になる理由は無数にあるわけで、むしろ無事に最後まで料理を出し切れることの方が珍しいのは当然のことなのかもしれません』
「おおっ!! ということは、完結間違いなしの俺の店は貴重な訳ですね!!」
『そうですよ。人気店になれるかは別問題ですが、誇って良いことだと思います。それにね、完結させれば、あとは博物館として半永久的に国が管理してくれますから、そういうお店を複数持てれば、強力な信頼のブランドとなります。酢ライムさまは期待の新人なのですよ』
浮かれて妄想に浸り始める酢ライムさま。ふふふ、隙だらけですよ?
私は、すばやく羊羹を切り取ります。ちゃんとお茶も買ってあるのです。
Illustrated by みこと。さま
っ!? 抹茶味の羊羹を期待していたのに、まさかの青りんご味!? しかもやわらかゼリー食感……そうか、酢ライムさまは、感情で味や食感が変わるのか……。
くっ、厄介な。こうなると青くなったときの味が気になるではないですか。
ふふふ、今度、怖がらせたり、怒らせてみましょうかね。にゃふふ。
Illustrated by みこと。さま
Illustrated by 糸さま