プロローグ
———運命だった、そして必然でもあった。
夏のとある日、夕食後の姉妹はソファーに腰掛けてテレビを観ながら団欒していた。その手に持ったデザート——バニラと抹茶のアイスを、ちみりちみりとお揃いの銀のスプーンで掬って。
「……あ、そういえばカーテン閉めてなかったね。もう夜も遅いし、閉めなくちゃ」
「うんー、ひのちゃんお願い」
「…‥お姉ちゃん、ダラダラし過ぎ!! も〜……しょうがないな」
ソファーから立ち上がった黒髪の少女は、先程まで座っていた自分の場所を埋めるように、ソファーの上で転がり出した姉へため息をこぼした。
今日の夕飯の片付けも妹である彼女——ひのりが観たいテレビも我慢して素手を洗剤塗れにしながらやったのに……なんて不満を溢したくなる気持ちを堪えて、「しょうがないなぁ」の一言で鬱憤を晴らす。
カーテンを閉め終わったら、姉に「ありがと〜」とか「おつかれー」とか言ってもらいながら頭を撫でてもらって、褒めてもらわないと!! ……そう決心した少女は、顔を引き締めて夜空を見上げた。
(……あれ……?)
その日の夜空は晴れ渡っていた。街や部屋の明るさにも負けず劣らず星が輝いている。
(……昨日、七夕だったからかな……? それとも、いつもこんなに綺麗な夜空だった? )
「ひのちゃん、何してるの?!」
カーテンの布地を持ったまま固まっている妹を心配したのか、いのりはソファーの上で立膝になって声をかけた。もしや窓の外に怪しい人影があるのではないかと危機感を抱いたのだ。
いのりから厳しい口調で咎められた気持ちになった妹は、体を硬直させながらも、空が綺麗なのだとオドオドしく答える。
「えっ!? あ……ううん、なんでもないよ。ごめんなさい、なんか夜空がすごく綺麗で……ついぼーっとしちゃった」
「そっか。なんだ……よかった……何かあったのかと思ったよー」
妹の返事に、いのりは安心して再びソファーに寝転んだ。
「…‥あ、流れ星……」
「え!! 流れ星!?」
嬉々とした声音の姉よりも先に、ひのりは願い事を心の中で呟いた。そんなに直ぐ願い事が思い浮かぶ訳はない。それはその瞬間に何気なく浮かんだもの——その時見ていた動物特集のテレビ番組に影響を受けた願いだった。
両手を胸の前で握りしめ、星々に捧げた。
(私も、私も動物と仲良くなれますよーに……!!)
夜空に祈りを、未来に願いを込めた13歳の少女の可愛らしい夢は、幸か不幸か、直ぐに叶えられることとなる。
『———あるじ、見つけた』
「……………………えっ?」
随分と可愛らしい声が聞こえた、気がした。
ひのりが目を丸くした瞬間————、
「えっ!? な、なにこれぇぇっっっ」
星が集まったような輝きが、ひのりの足元に出現した。
「ひのちゃん!?」
困惑する数秒の間にも異変はさらに異変と化していってしまう。星を集めたような輝きは、白んだ光の柱となって、ひのりを包み込む。足元からくる風に少女の黒い髪が舞う。
「お、おね。お姉ちゃん……!!」
わけがわからない状況に、ひのりは取り乱しながら姉に向けて手を伸ばしたが、光の柱に指を弾かれてしまった。
ひのりの体が、ふわりと宙に浮き始める。
———あ、ダメ。待って!!
いのりは、自然と身体が動いていた。
必死になって伸ばした手は、光の柱に弾かれることなく妹の指先に触れる。
「ひのり!!」
いのりは、妹が自分から離れないように抱きしめた。
姉に強く引き寄せられたひのりは、不安げな顔つきであたたかい姉の胸に顔を埋める。何が起こっているのか分からず、不安と恐怖がある中、ほんの少しの安心を求めて姉妹はお互いに寄り添った。
二人を一段と強まった光が包み込み………。
「———白槻いのりさん、ひのりさん。わたくしは異世界の女神。女神です。まずは謝らねばなりませんね……」
瞬きをした次の瞬間には、一人の女神が胸元で手を組んで微笑み、姉妹のことを待ち構えていたのだった。
「——いせ、かい……??」
状況に理解が追いつかない姉妹は、揃って呆け顔で呟いた。




