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ひだまり童話館(参加作品・過去お題作品)

六地蔵の山道

作者: 天神大河
掲載日:2021/02/22

 昔(むかし)むかし、瀬(せ)戸(と)内(ない)海(かい)に沿(そ)う山(さん)陽(よう)道(どう)の途(と)中(ちゅう)の山(やま)道(みち)に、六(ろく)体(たい)のお地(じ)蔵(ぞう)さまが立(た)っておりましたそうな。


 その地(ち)に古(ふる)くからあったお地(じ)蔵(ぞう)さまは、道(どう)祖(そ)神(じん)として、道(みち)を通(とお)るお百(ひゃく)姓(しょう)や町(ちょう)人(にん)、お侍(さむらい)にまでたいそう大(だい)事(じ)に扱(あつか)われておりました。


 しかし、長(なが)い年(ねん)月(げつ)と共(とも)にお地(じ)蔵(ぞう)さまのあった道(みち)は廃(すた)れ、お地(じ)蔵(ぞう)さまを覚(おぼ)えている人(ひと)もいなくなってしまいました。


 そんな夏(なつ)のある日(ひ)、一(ひと)人(り)の若(わか)いお坊(ぼう)さまが京(きょう)の都(みやこ)から九(きゅう)州(しゅう)への旅(たび)の途(と)中(ちゅう)、お地(じ)蔵(ぞう)さまのある山(やま)道(みち)に差(さ)し掛(か)かったそうな。


 その日(ひ)は朝(あさ)から厳(きび)しい暑(あつ)さが続(つづ)き、ずっと歩(ある)き通(とお)しだったお坊(ぼう)さまはしばし木(こ)陰(かげ)で休(やす)むことにしました。


「ふう、今日(きょう)はひときわ暑(あつ)いのう」


 お坊(ぼう)さまが額(ひたい)の汗(あせ)を拭(ぬぐ)いながら、ふと道(みち)の外(はず)れに目(め)を向(む)けると、全(ぜん)身(しん)に苔(こけ)を生(は)やした六(ろく)体(たい)のお地(じ)蔵(ぞう)さまが立(た)っておりました。


「おや、あんなところにお地(じ)蔵(ぞう)さまが。どれ、旅(たび)の安(あん)全(ぜん)を願(ねが)ってお参(まい)りしていこう」


 そう思(おも)ったお坊(ぼう)さまは、お地(じ)蔵(ぞう)さまのもとへ歩(あゆ)み寄(よ)りました。瞼(まぶた)を閉(と)じてお参(まい)りをした、その時(とき)です。


「坊(ぼう)さま、坊(ぼう)さまや。この道(みち)の先(さき)にある陽(よう)溜(りゅう)寺(じ)へ向(む)かうのじゃ。良(よ)いか、夕(ゆう)刻(こく)までに行(い)くんじゃぞ」


 どこからか響(ひび)いた声(こえ)を聞(き)いたお坊(ぼう)さまは、辺(あた)りをきょろきょろと見(み)回(まわ)します。しかし、周(しゅう)囲(い)に人(ひと)影(かげ)はありません。


 やがて、お地(じ)蔵(ぞう)さまに向(む)き直(なお)ったお坊(ぼう)さまは、半(なか)ば不(ふ)思(し)議(ぎ)そうな面(おも)持(も)ちで口(くち)にします。


「今(いま)のは、お地(じ)蔵(ぞう)さまのお告(つ)げじゃろうか。こうしてはおれん、陽(よう)溜(りゅう)寺(じ)へ行(い)ってみよう」


 こうしてお坊(ぼう)さまは山(やま)道(みち)を歩(ある)き始(はじ)め、日(ひ)が沈(しず)む前(まえ)に陽(よう)溜(りゅう)寺(じ)へとやって来(き)ました。


 寺(てら)の住(じゅう)職(しょく)に請(こ)うて、寺(てら)の宿(しゅく)坊(ぼう)を借(か)りることにしたお坊(ぼう)さまでしたが、その日(ひ)の夜(よる)から激(はげ)しい雨(あめ)が降(ふ)り始(はじ)めました。やがて雨(あめ)は暴(ぼう)風(ふう)を伴(ともな)った雨(あめ)となり、三(みっ)日(か)三(み)晩(ばん)にわたり降(ふ)り続(つづ)いたのです。


 暴(ぼう)風(ふう)雨(う)が収(おさ)まった後(あと)、お坊(ぼう)さまは避(ひ)難(なん)のため寺(てら)にやって来(き)ていたお百(ひゃく)姓(しょう)から、お地(じ)蔵(ぞう)さまのあった山(やま)道(みち)が土(ど)砂(しゃ)崩(くず)れで埋(う)まってしまったことを聞(き)きました。


「これは、驚(おどろ)いた。よもやお地(じ)蔵(ぞう)さまが、このために私(わたし)を寺(てら)へ導(みちび)かれたのだろうか」


 そのことを知(し)ったお坊(ぼう)さまは、一(いち)連(れん)の出(で)来(き)事(ごと)を寺(てら)の住(じゅう)職(しょく)に話(はな)して聞(き)かせました。


 それから程(ほど)なくして、山(やま)道(みち)の復(ふっ)旧(きゅう)が始(はじ)まりましたが、土(ど)砂(しゃ)に埋(う)まったお地(じ)蔵(ぞう)さまはとうとう見(み)つからなかったそうです。


 そこで、寺(てら)の住(じゅう)職(しょく)から話(はなし)を聞(き)いていた地(じ)元(もと)のお百(ひゃく)姓(しょう)たちは、代(か)わりの塚(つか)を道(みち)の傍(そば)に建(た)てて、お地(じ)蔵(ぞう)さまをいつまでもお祀(まつ)りしたのでした。


 昔(むかし)むかし、不(ふ)思(し)議(ぎ)なお地(じ)蔵(ぞう)さまにまつわるお話(はなし)でした。




六(ろく)地(じ)蔵(ぞう)の山(やま)道(みち)/おしまい

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― 新着の感想 ―
[良い点] まるで昔から語り継がれている伝承を聞いているように、スッと読者に入り込むお話でした。こういった昔話を読むとどこか懐かしいような落ち着く気分になる日本人は多いのではないでしょうか。 お地蔵様…
[一言] 「ひだまり童話館」から拝読させていただきました。 自らを拝む若いお坊さまを救わんとしたお地蔵さまに、素直に従ったお坊さま。 代わりの塚を作って、埋もれてしまったお地蔵さまを祀った地元のお百姓…
[良い点] 雰囲気のあるいいお話でした。 本当に山陽道沿いのどこかの土地に伝わる民話のようです。 6といえば六地蔵がすぐ浮かんできそうなものなのに、ちっとも思いつきませんでした。 消えたお地蔵さんたち…
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