六地蔵の山道
昔むかし、瀬戸内海に沿う山陽道の途中の山道に、六体のお地蔵さまが立っておりましたそうな。
その地に古くからあったお地蔵さまは、道祖神として、道を通るお百姓や町人、お侍にまでたいそう大事に扱われておりました。
しかし、長い年月と共にお地蔵さまのあった道は廃れ、お地蔵さまを覚えている人もいなくなってしまいました。
そんな夏のある日、一人の若いお坊さまが京の都から九州への旅の途中、お地蔵さまのある山道に差し掛かったそうな。
その日は朝から厳しい暑さが続き、ずっと歩き通しだったお坊さまはしばし木陰で休むことにしました。
「ふう、今日はひときわ暑いのう」
お坊さまが額の汗を拭いながら、ふと道の外れに目を向けると、全身に苔を生やした六体のお地蔵さまが立っておりました。
「おや、あんなところにお地蔵さまが。どれ、旅の安全を願ってお参りしていこう」
そう思ったお坊さまは、お地蔵さまのもとへ歩み寄りました。瞼を閉じてお参りをした、その時です。
「坊さま、坊さまや。この道の先にある陽溜寺へ向かうのじゃ。良いか、夕刻までに行くんじゃぞ」
どこからか響いた声を聞いたお坊さまは、辺りをきょろきょろと見回します。しかし、周囲に人影はありません。
やがて、お地蔵さまに向き直ったお坊さまは、半ば不思議そうな面持ちで口にします。
「今のは、お地蔵さまのお告げじゃろうか。こうしてはおれん、陽溜寺へ行ってみよう」
こうしてお坊さまは山道を歩き始め、日が沈む前に陽溜寺へとやって来ました。
寺の住職に請うて、寺の宿坊を借りることにしたお坊さまでしたが、その日の夜から激しい雨が降り始めました。やがて雨は暴風を伴った雨となり、三日三晩にわたり降り続いたのです。
暴風雨が収まった後、お坊さまは避難のため寺にやって来ていたお百姓から、お地蔵さまのあった山道が土砂崩れで埋まってしまったことを聞きました。
「これは、驚いた。よもやお地蔵さまが、このために私を寺へ導かれたのだろうか」
そのことを知ったお坊さまは、一連の出来事を寺の住職に話して聞かせました。
それから程なくして、山道の復旧が始まりましたが、土砂に埋まったお地蔵さまはとうとう見つからなかったそうです。
そこで、寺の住職から話を聞いていた地元のお百姓たちは、代わりの塚を道の傍に建てて、お地蔵さまをいつまでもお祀りしたのでした。
昔むかし、不思議なお地蔵さまにまつわるお話でした。
六地蔵の山道/おしまい