つまらない男
男子三日会わざれば刮目して見よと、人は言う。俺は三日どころか三年もの月日を過ごしてしまった。俺がどう変わったかはわからないが、リョクメイ国は変わった。
幕府が冒険者の居住権の条件を緩和したのだ。以前であれば、幕府に認可されたギルド、千本桜や八須賀金融などに所属していなければ、長期滞在は許されていなかった。
竜王に懸賞金がかけられて以降、冒険者が国に殺到した。審査も間に合わず、無法を働く者も多かった。千本桜が取り締まりを強めてもなかなか改善には至らない。
リョクメイ国が法律で冒険者の流入を止めず、規制しないのは言うまでもなく竜王を排除するためだ。
竜王が去ったあの日、俺は千本桜の拠点である寺に呼び出された。そこには女王蜂と熊蜂姉妹もいて、物々しい空気が漂っていた。
桜の木に竜王の力の痕跡が認められたという。木自体に細胞を改変させる力があり、触れれば人体に影響を及ぼすことも判明した。
人間が鬼になる原因の一つが明らかになった。幕府はそれを重く受け止め、懸賞金を出したようだ。
女王蜂は最後まで竜王を擁護した。桜は誰かが用意した罠かもしれない。だが、竜王は否定も肯定もせず神社に立て籠もり、以降は国の方針に従わないと返答するだけだった。
雨乞いをボイコットした竜王は、もはやリョクメイ国にとって害悪でしかない。早急な対応が冒険者に求められたが、神社のある小島に渡って生還した者はほとんどいない。それでも懸賞金に釣られた冒険者の熱気は衰えることを知らない。
いつからか、リリスは邪知暴虐の魔竜王と呼ばれるようになった。ステークホルダーのみならず、あらゆる方面に害をなす存在として認知されている。
市井で語られる竜王像の多くは、八本の首を持ち、世界を丸飲みする大蛇だ。逆説的に本物のあいつを知る人間は少なかったというわけだ。この話を耳にするたび俺は、あいつはゲーム好きの負けず嫌いで、お兄ちゃん子だぞと伝えたくなる。言っても誰も信じないだろうな。世界はあいつを覆い隠してしまった。これがお前のやりたかったことなのか?
俺は訊ねる機会を逸して未練たらしくこの国にいる。
「おい、離してやれ」
トウキという港町に来ている。
仲間の瑞角が、路上の物売りを捕まえて問いつめていた。俺が離すように言ったが、頑固な奴なのでなかなか聞き入れようとしない。
「ここは商売禁止なんですよ。それにこいつには以前警告したことがある。常習だし、一度こっぴどく締めた方がよくないですかね」
「その人は知り合いだ。俺に免じて見逃せ」
「ちっ、しょうがないなあ。おい、運が良かったな」
瑞角は渋々手を離した。
瓶底眼鏡に襤褸をまとった物売りは手早くゴザを畳み、風のように俺たちの間をすり抜けた。
去り際、俺の手に護符を握らせてきた。賄賂という奴だ。催促したわけではないが、売れば結構な金になる。
俺が護符を懐にしまい、腰に下げた赤い瓢箪に手をかけると、瑞角は眉をひそめた。
「任務中はやめて下さいよ。うちの評判にかかわる」
「堅いこと言うな。今更そんなもの気にしてもどうしようもない」
俺は白い隊服に桜色の羽織を肩にかけ、髪はオールバック、昼夜を問わず酒の臭いを漂わせている。見た目は子供のままなので、イキったクソ餓鬼にしか見えないだろう。
竜王が去った後、俺は千本桜に加入し、町の治安を守るつまらない男になった。




