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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
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八重頭神社


八重頭やえず神社の社殿は、リョクメイ国の南西洋上の小島にある。


かつてリョクメイ国では、水害は八つの頭を持つ竜の仕業と信じられていた。竜を鎮めるために各地に社が建てられ、いつしか人々の信仰の対象になった。


中でも洋上に張り出すように建てられたこの神社は国の重要な拠点とされ、立ち入りが厳しく制限されている。


出入りが許されているのは国の要職である大老と、竜王の二つ名を冠した冒険者リリスだけだった。


ショータが拘禁されて三日後、リリスはカトー共に神社に渡った。船着き場にスワンボートが係留されているのを確認し、先客がいることを知る。


「やあ、待ちくたびれたよ」


我がもの顔で待ちかまえていたのは、ピンク色の長髪に、パープルのスーツを着た派手な見た目の男だった。


リリスは侵入者を見るなり、怒り心頭に発してにらみつけた。


「人の家に勝手に入ったら、殺されても仕方ないと思わない?」


リリスの脅しをあざ笑うように、男は絢爛な指輪を嵌めた手で口元を覆った。


「お前の場合、本当にやりそうで怖い。せっかく来たのだから茶でもご馳走してくれ」


終始親しげな男を、リリスは毛嫌いしてはばからない。事前準備なく相対して、命の危険を感じるほどの相手はそう多くない。この男はその例外の一人だった。クロヴィスといって、冒険者を管理する神官の親玉だ。


巫女装束に着替えたリリスを先頭に、クロヴィス、カトー、最後尾にクロヴィスの従者が続いた。従者は広い額を持つ西方のエルフで、重苦しい雰囲気を纏っている。


「雨乞いの儀式はどのくらいかかる?」


クロヴィスは、朱色に塗られた回廊の手すりを撫でながらリリスの背中に訊ねた。


「一週間から長い時は一ヶ月近くになるよ」


「長いな。その間飲まず食わずなのだろう? 私が差し入れをしてやろうか。このテラは、何でも望むものを取り出すことができるのだ」


従者の肩を抱き、クロヴィスがリリスに提案する。テラは尖った耳に、灰色の肌をしている。リリスは彼に少し興味を抱いた。


「君はエルフガイム特区の人? はるばるご苦労様」


「は……、神官長のテラと申します」


形式的な挨拶が済むと、テラは再びクロヴィスの影のように後ろに下がった。会話は再び途切れ、荒々しい波の音が一行を包んだ。


カトーが奥の間で話し合ったらどうかと勧めたが、リリスは首を横に振った。


「世界樹の修復には手を貸さない。何度来ても同じだよ」


交渉が決裂した後、クロヴィスとテラはスワンボートで神社を離れた。足こぎのため進みは遅い。それでも、波にあおられ転覆しないのが奇跡的といえた。


「わざわざ私を連れ出して、主上もお人が悪い。あの娘は情に流される器でもないでしょう」


「そういうつもりはなかった。私はただ、あの娘の負担を軽くしてやりたかっただけなのだよ。それよりテラ、乗り物はもっとましなものがなかったのか」


テラは汗水垂らし、漕ぐ力を強めながら歯を食いしばった。


「申し訳ありません。主上の頭を浚ったら、これが出てきたもので」


クロヴィスは昔を懐かしむように、遠い目をした。


「そうだった。妹と乗ったことがある。兄は妹との思い出を決して忘れないものだよ」


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