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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
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国からの依頼


リヒターに帰り道を聞いておけばよかった。寺町を抜けるのに大分かかったぞ。それにしても刀というのは思ったより重いのだな。長屋につく頃には腕が上がらなくなっていた。


「おい……、竜王! 無事か」


早朝にもかかわらず、俺は怒鳴り込むように長屋に突入した。竜王は血相を変えて土間に出てきて、俺の頭をしゃもじで殴った。


「うるさい! ご近所迷惑になるでしょうが!」


竜王は櫛柄の着物に緩く帯を締めている。見たところ、健康そうだ。俺の心配は杞憂だったか。


「アテナはまだいるのか」


「? とっくに帰ったけど。それより昨日はどこいってたの。心配したんだからね」


「心配? 俺をか?」


「するよ。もう君はうちの子なんだから」


平然と言い放つ竜王の顔を直視できない。俺の居場所はやはりここにしかないらしい。


「それより、その刀」


竜王が俺の刀を指さした。


「どうしたの? ほら、隠すな」


やましいことはしてないが、つい怪しい挙動をしてしまう。竜王は軽やかに俺の背後に回り込み、刀を奪った。


「いいもん持ってんじゃん。へー、どれどれ」


刀身を日の光にかざすうち、竜王の顔つきが険しくなった。


「ねえ、これどこで手に入れたの」


「貰った」


「誰に?」


間髪入れない竜王の尋問が恐ろしくなり、本当のことを言いそびれた。情けないが、浮気を疑われた男のように縮こまる。


「よく知らない男だ」


納得がいかないようだったが、竜王は俺に刀を返した。


「別に疑うわけじゃないけど、約束して。これから隠し事はしないって」


約束とは本来、一方的にするものではない。だが、今の俺には弱みがある。どんな不利な条件も鵜呑みにするしかない。


「わかればよろしい。さ、朝ご飯食べて、お仕事行くよ。君にも手伝ってもらうんだから」


拒否権はないぞと念を押し、竜王は水をくみにいった。


俺は完全にこいつの言いなりだ。まあ主導権を握られるのは目に見えていた。朝餉がてら、仕事の内容を聞く。


「建設中の砦を獣人が襲っているんだって。獣人を追い返すだけの簡単なお仕事です」


獣人は、北国ニーベルンデンに住む獣に近い生態を持つ生物らしい。獣といっても王を頂き、国家を運営している。たびたび船に乗って現れては、リョクメイ国の領土を襲う。砦はその備えであり、破壊されては困るのだ。


クマが言っていた砦とは、このことに間違いない。あの材木屋は相当儲けているのに、利子すら渋ろうとした。背後にいるのが国家だから強気でいられたわけか。


「国からの依頼だから失敗は許されない。獣人も、干魃で苦しいから気は進まないけどね」


「それを聞いて、俺がやめるとでも?」


竜王は箸を置き、真顔になった。


「両方に良い顔は出来ない。冒険者として生きるには不本意な行動を強いられることもあるってこと。一応確認しておきたかったの」


竜王とリョクメイ国のつながりは深い。見て見ぬ振りをするのも限界があるが、悪事に荷担していると決めつけるのも早計過ぎる。俺だって、清流だけで世界が成り立っているとは考えていない。


「お前は、この国に借りでもあるのか」


「そんなんじゃないよ。自分の信念を貫きたいからやってるの。頑固なんだ、私」


竜王は、はぐらかすように言って、食器を片づけ始めた。


「リリスがいなくなったら、この国は滅ぶよ」


食事の間、黙っていたエチカが俺に耳打ちしてきた。大げさな表現に、顔の頬の筋肉が緩む。この時はまだ竜王の影響力を侮っていた。


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