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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
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蜂須賀金融


蜂須賀はちすか金融という真新しい看板を見上げる。


俺が紹介されたのは、商家の立ち並ぶ一角にある店だった。金融とついているから、金貸しだろう。ここに来るまでに雨は上がっていた。人々が水たまりを避けて通る。


意を決して唐草色の暖簾をくぐった。狭い入り口を通った先に木のカウンターがあるが、店員はいない。店舗は閑散としている。木のいすに座って待つが、誰も現れない。


壁に貼られた紙には、融資の条件と金利が記載されている。


大名、一割五分。 冒険者、二割三分。


大名(?)と、冒険者では金利が違うことに気づいた。


キャッチコピーは、大名、冒険者、御用達。即刻融資が自慢。安心安全の蜂須賀金融にお任せ。


「う、うさんくさ……」


俺がこの店の信用を疑っていると、人の気配を感じた。


カウンターの向こうに若い女がいた。格子柄の着物に、栗色の髪を垂らし、眼鏡をかけている。俺が驚いて立ち上がると、女は無表情のまま頭を下げた。


「いらっしゃいませ……、お姉ちゃんはいません。いないことになってます」


消え入るような声で挨拶されても、全く歓迎されている気がしない。客商売に向かない陰気な表情が、全てを台無しにしてしまっている。女がおどおどと上目遣いする度、居心地が悪くなった。


「竜王の紹介で来た。店主はいるか」


それを聞いた女は虎のような俊敏さでカウンターから身を乗り出し、俺の首に手を伸ばしてきた。この腕に掴まれたら最後、二度と逃れられないのではないか。異様な迫力を感じたが、俺は逃げなかった。本能的にそうした方が良いと判断したのだ。


女は俺の喉近くまで手を伸ばしたが、ゆっくりと引っ込めた。


「ついてきてください」


カウンターの一部を外し、女は店の奥に俺を招き入れた。外からではわからないが、店舗は隣家と繋がっている。障子を挟んだ部屋のそこかしこから人の声が聞こえる。審査を受けるために多くの人間が詰めかけているのだ。


「あの方の紹介なら……、会えると思います」


板の廊下を歩きながら、女が太鼓判をくれた。この女のお姉ちゃんとやらが、竜王の言ったはっちゃんなのだろう。


「お姉ちゃん、お客さまがいらっしゃいました」


障子の前で女が控えめに呼びかけると、


「風邪ひいたから誰とも会わないって言ったろ。追い返せ」


中で鼻声の主がすぐさま返答した。どうにも雲行き怪しい。ここも体調不良か。運がない。出直しも覚悟した。


「……、リリスさんの紹介です」


「わかった。入れ」


どうにかお許しが出ると、俺は、はっちゃんのいる和室に足を踏み入れた。六畳の床の間の中央に火鉢があり、その前にどてらを被った人間がうずくまっている。


「リリス君の紹介だって? 花菱だったら絶対貸さないよ。一体今までいくら貸したと……」


顔を上げた際、ドテラがはらりと畳に落ちた。初対面のはっちゃんは、瓶底の眼鏡をかけたボサボサ髪の二十代前後の女だった。グレーの上下の下着以外何もつけていない。俺の視線に気づくと、薄い胸を押さえて変な悲鳴を上げた。


「ふわーっ、ちょっと! なんで男の子いるし。クマ! 服持ってきて」


俺を案内してくれたクマという女が、自分の着物を脱ごうとした。姉より豊かな胸が少しだけ露わになっただけで、その自己犠牲は却下された。はっちゃんがモスグリーンのセーターを着て、ようやく話ができるようになった。


「お見苦しいところを見せたね。来るって聞いてたら準備したのに」


はっちゃんは、赤い顔で鼻をすすっている。


体調が悪いのは本当らしい。だが、汗をかくので服を脱いでいたのは対処療法として疑問が残る。妹のクマはお茶を持ってくると行って退室した。


さて、どんな話が聞けるのだろう。


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